智慧の扉

2014年12月号

思考のメカニズム

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 一般的に思考とは、考えることです。思考とは、言葉で考えることだけではありません。概念の回転も思考です。概念には言葉は要りません。言葉がなくても私たちが知っていることはたくさんあります。それから、感情の回転も思考とします。思考とは、心の仕事のこと全般をいうのです。

 その思考には三つの層があります。①私たちが気づいている感情と思考(表面)です。これは皆さん知っています。いま考えたり感じたりしていることはわかっていますね。次に、②たまに気づく無意識という感情(背面)です。無意識とは仏教用語ではなく現代の心理学用語です。そして、③持って生まれる基礎感情(潜在煩悩)があります。この三層です。
 
 どんな生命であろうとも、生まれると③の基礎感情を持っているのです。この三層目は誰も気づくことができません。しかし、ブッダの心理学を学んで調べる人にだけ、いろいろと試してみて「恐らくこうではないか」と発見することはできます。心の働き・仕組みを知っている仏教にしかできません。
 
 人格改良のカギは、私たちが気づいている表面の感情と思考です。表面で現れる貪瞋痴の制御はできます。怒りが起こったなら、それは制御することができます。意識の部分で制御すればいいのです。妄想というのは貪瞋痴の刺激ですから、妄想を減らすことでも思考を制御することができます。
 
 そうして表面の感情と思考を制御することで、無意識の部分にも影響を及ぼすことになり、さらに無意識の部分に強く影響があると、基礎感情(潜在煩悩)の部分にまで影響を及ぼすことができるのです。
 
 意識的な思考と感情を管理する方法は、仏教でたくさん説かれています。その中でも究極の制御・管理方法は、「気づき(sati)」の実践です。もう一つの方法は、汚れた思考を正しい思考で置き換えることです。しかし問題は、誰もが自分の思考が正しいと思っているので、本当に正しい思考とは何かと学ばなければならないことです。勝手に考えてはダメです。自分の思考は、本人にとっては正しいのですから。
 
 人は自分が尊敬する人物から影響を受け、生き方を学んで自分の人生を変えようとします。ですから、我々は正しい思考を学ぶために、人格を完成した、貪瞋痴を打ち破った、正自覚者であるブッダや阿羅漢たちを指針にすべきなのです。人格の改良は、お釈迦様の助けがないと難しいのです。