智慧の扉

2014年1月号

正しい集中力の育て方

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 集中力とは何でしょうか? それは「生きる力」です。誰でも、面白いことをするとき夢中になるでしょう。集中力があると、脳がいきいきと活発に働いて、疲れないのです。とてもよい状態なのです。そこに雑念が割り込むと、せっかくの集中力=生きる力が途切れてしまいます。ですから、あれこれ考えることは罪悪なのです。

 でも落とし穴があります。私たちがふつう「超面白い!」と夢中になって集中することは、貪瞋痴の煩悩を刺激するのです。集中力は「生きる力」なのに、「超面白い!」ことに集中すると自己破壊になって人生を棒に振ってしまう。人生にはこの手のジレンマがつきものです。

 ですから、私たちは「正しい集中力」を育てなくてはいけません。貪瞋痴を刺激する間違った集中力は簡単に育ちますが、正しい集中力を育てるのは難しい。仏教が提案するのは、余計な思考、雑念、役に立たない思考をどんどんカットする方法です。思考が出てきたら、「この思考は役に立つのか?」とチェックする。役に立たないと分かったら、「この思考は邪魔だからやめる」ときっぱり捨てるのです。これは徹底的に理性に基づいた方法です。

 どうしても思考がやめられない場合、もう一つ方法があります。同じ妄想するなら、無理矢理にでも清らかなことを妄想してみるのです。脳には一つの思考しかできないという法則があります。一つの清らかな思考を繰り返すことで、他の悪い思考を追い出せるのです。問題は、人間には「清らかな思考」とは何かと想像もできないこと。そこで正覚者たる釈尊が、「慈悲喜捨」という四つの清らかな思考(概念)を紹介しているのです。

「皆が幸せでありますように」という慈悲喜捨の思考を真剣に回転させると、汚い思考が追い出されます。それで心に楽しみが生まれて、「正しい集中力」が育ち始めるのです。短く「幸せでありますように」だけでも結構です。慈悲の思考をなめらかに回転させて、「正しい集中力」をとことんまで成長させましょう。