智慧の扉

2015年5月号

押し寄せる八つの波

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 この世の中では、常に八つの現象が回転しています。これを波に譬えてみます。荒波・津波に持ち堪えられれば人生は大丈夫でしょう。常に起こっている八種類の波とは、『①得、②損、③名誉、④不名誉、⑤賞賛、⑥非難、⑦楽(幸・成功)⑧苦(不幸・失敗)』【八世間法】です。①と②は損得です。③は、自分の努力によって認められ褒められること。④は逆に認められないこと。⑤は自分の努力にかかわらず社会が勝手に褒めること。⑥は社会が勝手に非難すること。⑦と⑧は文字通りの意味です。この 8つが、ずっと回転しているのです。人間は、なにかしらの波に晒されています。

 この波に流される弱い人間だったら、人生を前に進める暇がありません。なぜなら、ひとつの波が過ぎたら、次の波が来て、また次の波が来るからです。しかも、八つの波は順番に来るわけではありません。ですから、波が押し寄せても、ただ立っているしかないのです。「別に、なんてことない」という感じで。

 例えば、「誰かがあなたのことを褒めていますよ」と言われても、「ああそう、まあ別に。人が勝手に言っていることだから」と平然といる。また「誰かがあなたのことを無茶苦茶に非難していますよ」と聞いても、「そうですか、まあそれはその人の考えですからね」と、それで終わりにする。

 あるいは、仕事が上手くいって相当な得をする。「世界経済が好調で、今この商品に人気があるから売れているだけで」と舞い上がらない。それで、その品物が売れなくなって損したら、「もうこれは時代遅れですから、他の商品を開発しないとね」それで終わり。いちいち嘆いたり、悲しんだりはしません。いつでも押し寄せる波を乗りこなし立っているのです。

 これら八種類の波に対して「当たり前のこと」「世の常」であると耐える能力を育て、身に付けるのです。「生きる」とは、赤絨毯の上を歩くような晴れやかな道のりではないと、しっかりと理解するのです。波は様々に、回転して押し寄せてきます。その中で人生を持ち堪えなければいけないのです。

 この八つの波を、憂い・悲しみ・落ち込みの原因にしてはいけません。私たちは「損をせず、得だけしたい」と思っているので、この真理を認めたくないのです。しかし、現実的に次から次へと押し寄せてくる荒波を「当たり前のこと」と認めることが心の成長なのです。