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一生役立つブッダの育児マニュアル

親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

大人の務めと人生の最終目標――吉祥経2

さて、ここまで話してきた項目は、私たちが幼少の頃から学ばなければならない事柄です。悪い人とつき合わず、善い人とつき合い、尊敬すべき人を尊敬する。自己を管理して、適切な環境を選ぶ。教育を受け、技術を身につけ、道徳を守り、言葉を管理する。
このような生き方をしていると、だいたい20歳ぐらいになる頃には、立派な成人に成長しているものです。それからまた、次の仕事があります。

両親を養う

両親の面倒をみることです。今までさんざん両親にお世話になったのですから、これからはお返しの時間です。これは人間として、とても大事な仕事なのです。人間はとかくわがままで、自分一人で大きく育ったような顔をして、「忙しいから親の面倒をみる暇などない」と非常識なことを言う人も少なくありません。
しかし、今、あなたがここにいるのは誰のおかげですか?母親と父親のおかげでしょう。両親から受けた恩を知って、両親の面倒をみない限り、私たちは幸福になれないのです。

それから、どの程度、両親の面倒をみればいいのかという問題もあります。親が中年ぐらいなら親の仕事を助けるとか、あるいは老年で足腰が衰え、身体の自由が利かなくなっているなら、身の回りの世話をするとか。
状況を判断しながら、両親の恩は一生忘れずに、感謝の気持ちをもって、やるべきことはすべてやることです。

家族を守る

両親の面倒をみるだけではなく、妻と子供を養い、守らなくてはなりません。
ときどき奥さんを大事にしない男性もいるでしょう。ああしろ、こうしろと指図や命令ばかりして、奥さんを奴隷のように扱っている。毎日毎日、子供を育て、両親の世話をし、家の財産を管理して、家の雑事を何から何までやり、親戚たちともうまくつき合ってくれるなら、それほどありがたいことはないでしょう。
「ありがたい」と感謝する気持ちがないと、幸福は来ないのです。

罪を犯さず、酒を慎む

仕事を選ぶ時は、罪を犯す職には就かないことです。いくらお金が儲かるからといっても、他人に害を与えたり、罪を犯したりする仕事なら、即刻やめるべきです。
それから酒に溺れないこと。仕事が終わると家に帰らずに、しょっちゅう居酒屋やパブに行く男性がいるでしょう。それでは人生が台なしになってしまいます。酒を飲むと、理性を失い、何をするかわからないのです。酒というのは魔薬で――麻薬とは少し意味が違いますが――魔に言われるまま、暴力を振るったり、中傷したり、バカなことをやって罪を犯してしまうものです。ですから、酒はやめた方がいいのです。

驕りを捨て、謙虚に

35歳から40歳頃になると、仕事の面でもさまざまな経験を積み、責任を任され、社会人としての貫禄もついてくるものです。このバリバリと仕事ができる最盛期にこそ、威張らず、驕らず、謙虚に、落ちつくことを習うべきなのです。

得たもので満足する

欲の限度をわきまえて、「足るを知ること」です。40歳ぐらいになると、自分の能力は自分でわかるものです。会社で「自分は係長までだ」とわかったら、そこで覚悟した方がいい。「課長になるまで頑張るぞ」と欲を出すと、今はリストラの時代ですから、昇進どころかクビになってしまうかもしれません。そうすると人生はさらに苦しくなります。
ですから、自分の能力を知り、今ある仕事を精一杯やって、充実感を得ることが大事なのです。

法を聞き、真理を発見する

それから定年で退職する頃には法を聞くこと、つまり仏教を勉強することが大切です。60歳や70歳になっても飲み屋を歩き回ったり、妻がいるのに他の女性を求めたりしていては、大変な不幸に陥ります。
お釈迦さまは「年を取ったら異性に対する欲は捨てて修行しなさい」と諭されました。医学では、男性は80歳や90歳になっても異性との関係がもてると言われているようですが、それは屁理屈で、やはり高齢になったら自分の体力は守った方がよいのです。そしてお釈迦さまが説かれた存在の真理、苦集滅道の真理を発見できるように励むことです。

涅槃の体得

そして最後には、苦しみの滅、究極の幸福である「涅槃」を体得できるように修行することです。これは、必ずしも出家しなければならないわけではありません。経典には出家するようにとは書かれていませんから、在家のままでも、怠らずに精進すれば涅槃に至れるのです。
もし子供を正しく育ててきたなら、子供は自分の面倒を見てくれるでしょう。最低、食事ぐらいは作ってくれると思います。それで自分には暇ができますから、その時間で真理を目指して精進すれば、涅槃さえも得られるということなのです。

人生のプログラムはこれですべて終了です。仏教の育児とは、幼少期のことだけでなく、生まれてから死ぬまでの一生涯の教育のことです。死ぬ時には究極の幸福である涅槃を体得しましょうという、広大なスケールのプログラムなのです。

人生の成功者

お釈迦さまが説かれたこれらの項目を実践して成功を収めた人の心はどのようなものか、ということが次に示されています。世の中には損や得、賞賛や非難、名誉や不名誉、苦や楽などがありますが、これらのことに触れても心は混乱せず、平静である。憂いや悲しみ、未練がなく「これがやりたい、あれがやりたい」という欲もない。心が安定して平和がある。
お釈迦さまは「このような人はいかなることにも負けず、あらゆる場面で勝利を得、幸福を得られる。これこそが人間の生きる道です」と教えて、この経典を締めくくられました。

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親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2004年8月