智慧の扉

2016年2月号

思考の管理で、心を癒す

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 貪瞋痴という三大煩悩は私たちの人生を不幸にする根本原因です。しかしこの三大煩悩に、簡単にアクセスして取り除くことは難しいのです。私たちは、欲張らないようにするぞ! 怒らないようにしよう! と思っても、気づくとすでに感情の虜になっています。
 
 ですから、科学的に心を観ましょう。まず貪瞋痴の感情があり、それから思考(妄想)が現れて、思考が感情を養う、というプロセスで心は働いています。どんな感情を養っているのかといえば、貪瞋痴の感情です。すべては無常なので、心も常に栄養が必要です。栄養がなくなると心も死んでしまう。これも因果法則です。
 
 このように、延々と途切れることなく心に栄養を供給するシステムができあがっているのです。エネルギーを増幅させるようなループ(回路)を作っているので、いつでも貪瞋痴があり、思考する度に貪瞋痴が元気になるのです。
 
 この悪循環のシステムを、お釈迦さまは良い循環に転換させるのです。意図的に不貪・不瞋・不痴の思考をすることで、悪循環の供給を断ち貪瞋痴を栄養失調にするのです。それしか貪瞋痴を無くす方法はありません。ガン細胞のように直接、貪瞋痴を取って捨てることはできないのです。
 
 ですから、思考の管理をしましょう。

㈠ 思考と妄想を区別する。妄想はただの感情の波です。いくら続けても終わりません。思考には、感情とともに具体的データが必要です。思考には必ず結論があるのです。

㈡ 思考・妄想にチェックを入れる。①善か悪か? ②役に立つか立たないか? ③幸福を感じるか不幸を感じるか? と確認してみましょう。妄想するとき、自分に「いま私は幸せ?」と聞いてみてください。とんでもなく不幸であると発見できると思います。

 大事なことをやっているときは幸せを感じます。例えば、晩ご飯の献立を考えるとき、本人は幸せを感じているのです。しかし、妄想すると不幸を感じる。そうやって、すべての思考・妄想にチェックを入れましょう。

㈢ 思考を置き換える訓練をする。悪思考をしていると気づいたら、善思考に置き換えましょう。例えば慈悲喜捨の思考に置き換える。皆さまが知っている慈悲の冥想・実践です。頭の中をめいっぱい、その思考にします。あるいは、無常の思考に置き換えます。下らない妄想は止めて、みるみるうちに変化していく無常の視点で、何事も観てみるのです。

 そのように思考を管理することで、心は癒され、貪瞋痴という感情が減っていき、煩悩に負けることも少なくなっていくのです。