根本仏教講義

17.人とのつきあい方 9

友人関係・職場の関係

アルボムッレ・スマナサーラ長老

楽しく友達づきあいをするために

次の方角は北です。北は友人関係です。どのような友人とつきあうべきかということについては、善友と悪友の項で詳しく述べました。善友を大事にするべきであることも説明しましたが、どのように大事にするのかはよくわからないと思います。ここでお釈迦さまは、その答えを出しています。

友人に対して守るべき条件が五つあります。

・一つ目は、dāna-与えることです。Dānaは「布施」とも訳されている言葉ですが、この場合は「与える」という意味でよいと思います。人間関係というのは、いろいろなやりとりのことです。ですから友人たちに必要なときに必要なことをしてあげないとすれば、何のための友人関係なのか、わかりません。友達にはその場その場に応じていろいろなことをしてあげないといけないのです。
・二つ目は、peyyavajja-愛語です。善友のこころを傷つけてはいけません。乱暴な言葉を使わず、とても優しい言葉で話すべきです。人間というものはあまり相手の気持ちを気にせず、自分の感情、自分のわがままを言いたくてたまらないものです。これは、聞く相手のことを大事に思わないからする行為です。わがままで主観的な感情を出してしまうと、相手の人権を侵害したことになります。誰に対しても粗暴語はいけないと思います。善友と付き合うとき、愛語を使って穏やかな気持ちになることは、すばらしいことです。使い方によって人を穏やかな気持ちにさせる言葉は、芸術だと思った方が実行しやすいと思います。
・三つ目は、attha-cariyā-人のために尽くすこと(利行)です。役に立つように生きることです。善友の役に立つように気を配って生活しなくてはいけないのです。他人の役に立つ人は、社会においては宝物なのです。
・四つ目は 、samānattatā-自分と等しく思うことです。相手が「偉い」と思うのも、自分が「偉い」と思うのもコンプレックスになります。円滑な人間関係を保つためには、障りとなります。
・五つ目は、avisaṃvādanatā-欺かないことです。約束をまもる、信頼出来る人間でいなくてはならないのです。

今までの説明では、友人関係とは「してあげる」だけのものではないかと思われるかも知れません。しかし、どんな関係も相互的です。自分がそのように善友に接したならば、その相手の友人はその親切を返してくれるのです。自分自身は「してもらう」資格がなければいけません。
では友人である相手の義務はなんでしょうか。親切を返す方法も五つ挙げてあります。

・一つ目は、pamattaṃ rakkhanti-無気力な時に守ってくれる。人間には、ダメな時も、どうしようもない時もあります。落ち込む時も、何もしたくない時もあります。このような調子の悪い時は本当に危険ですが、しかたがありません。善友はこの大変な時期をちゃんとキャッチして、必ず守ってくれるのです。
・二つ目は、pamattassa sāpateyyaṃ rakkhanti-無気力な時にその財産を守ってくれる。無気力になった時、人は愚かなこともしてしまいます。金の無駄遣い、飲酒運転などもあり得るのです。善友は人を守るだけでなく、その人の財産までも守ってくれるのです。
・三つ目は、bhītassa saraṇaṃ honti-恐れおののいている時に庇護者になってくれる。
・四つ目は、āpdāsu na vijahanti-友人が逆境に陥っても見捨てない。この世では、羽振りがいい時はいくらでも仲間がいるのです。しかしお金がなくなったり、権力を失ったり、また疑いをかけられたりすると、皆見事に知らん顔をして逃げるのです。不幸な時、見捨てない人こそ善友です。
・五つ目は、apara-pajam ca pi’ssa paṭipūjenti-友人の子孫まで心配する。友人の家族、孫までも親切にするのです。その人たちにも、何かしてあげることがあったらそれもこころよく行うのです。友人に対する信頼、愛情は、友人に関わりある人々にまでも行き渡るのです。「あなたのことは好きですが、あなたの子供は嫌いです」ということはないのです。子持ちで再婚したところ、相手に子供を虐待される、殺されるなどのケースもこの世にはあります。相手を本当に愛して結婚したならば、相手の子供まで愛するはずです。

ストレスなしの仕事ってあるの?

次に下の方向です。下とは、雇用関係です。当時のインドでは召使いなど、現代なら会社の上下関係など、仕事での関係です。自分が雇っている人々との関係はどうすればいいのか。
雇っている人々に対しても五つの条件で接するべきです。

・まず一番目は、yathā-balaṃ kammanta saṃvidhāna-雇った人の能力にふさわしい仕事を頼むことです。そうするとその人はつぶれません。過労にもなりません。仕事も失敗もしません。鬱など精神的な病気にもなりません。だから上司は、部下の各人の能力をちゃんとチェックして、それぞれの仕事を頼む義務があります。それも大切なことなのです。
「部下との人間関係」についてのハウツー本がたくさんありますね。どうすれば社員たちに元気に仕事をしてもらえるか、と。簡単なことなのです。絵なんか全くかけない人にイラストを描く仕事を頼んでも苦しくなるばかりでしょう。イラストが得意な人に、文章を書いてくださいと頼んでもできないのです。コンピューターなど触りたくもない人にデータ管理を頼むなど、ムチャクチャな依頼をすればどうなるでしょうか。「仕事だから文句を言わずやりなさい」という態度の場合、能率は最低なのです。雇われた人たちも、悔しくて嫌になるのです。不得意なことをやらせようとして人を苦しめるよりは、人の能力にふさわしい仕事を頼めば、スムースに行くのです。
・二番目は、bhatta-vettanānuppadāna-生活出来るくらいの給料をあげること。一時的に、仕事単位で雇う場合も、その仕事に適した給料をあげるべきです。論理的には当たり前のことかも知れませんが、実際は実施しない人もかなりいるのです。
・三番目は、gilānupaṭṭhāna-病時に看病する。現代は社会保険制度などがありますね。それはとても必要なことです。経費削減云々と言ってなくしてしまえば会社の赤字は更に増えると思います。個人的に雇っている時は、見舞いに行ったり看病したりする必要もあります。会社の場合も、上司は部下の見舞いをすべきです。
・四番目は、acchariyānaṃ rasānaṃ saṃvibhāga-珍味を分け与えることです。収入の差もありますから、部下は上司ほどごちそうを食べられない可能性もあります。現代的に言えば、たまにでも高級レストラン、料亭などへ連れて行ってごちそうすることです。個人的な場合は、家で一緒にご飯を食べることになるかも知れません。そうすると皆、元気で気持ちよく仕事をしてくれるのです。
・五番目は、samaye vossagga-適当な時に休息させること。昔のインドの召使い制度では、死ぬまで働くことになります。召使いの体力や健康状態も気にせず、頼みたい放題に仕事を頼むこともあったのです。昼も仕事をさせて、夜も仕事をさせることもありました。ですから「適当な時、休息させなさい」というブッダの言葉には、大変な意味があったのです。現代では、法律的に労働時間が定められています。それにもかかわらず、過労になるまで仕事をさせるところは少なくありません。

「よい社員」になるために

では雇われている人々はどのようなことをすればいいかというと、それも五つあります。

・一番目は、pubbaṭṭhāyino-朝早く起きることです。住み込みの仕事の場合は、主人より早く起きて仕事を始めることです。現代では、社長や部長や上司などが出勤する前に自分が出勤することです。いわゆる、遅刻してはいけないということです。
・二番目は、pacchānipātino-皆が寝た後で寝ることです。主人が寝た後に、雇われている人たちは休むのです。上司より先に家に帰ることは、あまりよくありません。部下は、やり残した仕事を終えてから帰った方がよいのです。
・三番目は、dinna-dāyino-与えられたもののみを受けとることです。盗みをしないという意味です。給料以外、不正に会社のお金を横領しないということです。
・四番目は、sukata-kamma-kārakā-上手に仕事をこなすこと。これは当たり前のことなのですが、朝早く起きて夜遅く寝るまで、ただ居るだけではなく仕事もきちんとすることです。「よくがんばっているのだ」と印象づけるために遅くまで会社にいる人もいると思います。「誰よりも先に出勤した、皆の後で帰宅した」というだけでは会社の役に立ちません。仕事というのは、責任を持って自己判断してやるべきです。現代的にいうと、何でもかんでも社長がすべて決めるまで待たないで、社員たちも責任を持って仕事をこなすべきです。
・五番目は、kitti-vaṇṇa-harā-名誉と賞賛を吹聴することです。これも大変大事なことです。もしも使用人が外で主人を非難したり軽視したりするなら主人の社会的な立場は崩れるのです。使用人が言うことは皆信じるのです。世間の人が見えない部分まで使用人には見えるので、弁解する余地もありません。現代でも、社員が会社の悪口を言うなら、社内状況を知るために、それほど具体的な証拠は他にありません。ライバルの会社をつぶしたい時には、現代でもその会社の社員から内部事情を入手します。ですから、よい社員は会社を批判することも、秘密を漏らすこともしないのです。自分の会社をよくほめるのです。それは高額な宣伝よりも、高価なことです。

雇用関係も互いに五つずつで、十項目の条件で成り立つものです。それらのことに気をつけると、会社と社員の関係は完全にうまくいくと思います。