智慧の扉

2010年6月号

心は繰り返しで成長する

アルボムッレ・スマナサーラ長老

心の成長に欠かせないもの、それは「繰り返し」です。一回だけ何かすればモノになる、ということはない。人生はすべて訓練の結果です。人間が関わるものはすべて、個人も社会も政府も国も、繰り返しの訓練によってのみ、成長していけるのです。

シンプルに聞こえますが、これはブッダが説かれた「生命の真理」です。心は訓練で成長します。訓練とは単純な話で、繰り返すだけ。繰り返してしまえば、もうできるようになっているのです。過去世とか、業とか、あれこれ考えなくても、人生を成長に導くことができます。「心は繰り返しで成長する」と覚えておいて下さい。その繰り返しがどれくらい真剣か、どれくらい密度が高いかによって、身につくまでの時間の差が出てくるのです。

しかし落とし穴もあります。もし心を「間違った方向」に訓練したら、とても危険な状況に陥ります。間違ったことを訓練したら、心はその間違った世界のものになってしまうのです。だから仏教では、冗談にでも悪いことはするな、悪を犯しても繰り返すな、と言っています。

最も危険な悪とは、邪見に陥ることです。例えば、「真我(永遠の魂)があるはず」と繰り返して言い聞かせるともうお手上げ。「無常」という目の前の真理を無視して、あらゆる屁理屈で「真我」の存在を正当化してします。世の中で「神」が信仰されているのも、このカラクリに乗って、間違った方向で思考を繰り返した結果なのです。

では、心を「正しい方向」に訓練するとはどういうことでしょうか? 答えは「八正道」です。八正道の繰り返しによってのみ、私たちの心は解脱の境地まで成長していけるのです。