智慧の扉

2018年11月号

命の根源的な矛盾

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 仏教では、私たちの身体が「地水火風」という基本的な四つのエネルギーで成り立っていると説きます。誰にでもわかるシンプルな言葉で、「この身体は土(地)と水と火と風であると観てください」と教えるのです。私たちは、地水火風のエネルギーに支えられて生きています。地水火風がなければ命も成り立ちません。地水火風で自分の身体ができていて、外側にある食べ物も水も空気も熱も同じく地水火風なのです。一般的にはそこまでの理解で終わりです。
 
 もう少し地水火風について調べ・観察すべきことがあります。生命に対して、人間に対して、最大の災害を与えるのはどんなものでしょうか? 一番危険なものとはなんでしょうか? それは、地水火風なのです。地水火風が、この世界を限りなく破壊するのです。風はどうでしょう。台風や竜巻は恐ろしい被害をもたらします。ただの風です。風が、すべて破壊するのです。では火はどうでしょう。火はそれ自体が破壊者です。世界を焼き尽くして破壊します。水はどうでしょう。命の源といって有難がっていますが、水も破壊するのです。津波とは水の塊です。土(地)もまた、恐ろしいのです。地震や地滑りなど大地が揺れると、それだけで生命は死に瀕します。
 
 命を支えてくれるはずの地水火風の正体は、絶対的な破壊者なのです。命を支えているというのも、実はインチキです。地水火風をいくら取り入れても、生命はみな老い、病気に罹り、死んでしまうのです。地水火風が命を支えるように見えるのは、死ぬまでのほんの僅かな時間に過ぎません。世間では、地水火風が破壊者である事実をまったく無視して生きています。人間はいつでも、あべこべ思考なのです。
 
 私たちには、体調を維持するために水が必要です。喉が渇くし、水分が無くなると脱水症状に陥るので、水分を摂らないと危険です。それで水を飲みます。しかし、その水が身体を破壊するのです。では水を摂らなければいいのかというと、水を拒否すると残りの地・火・風が身体を破壊しに襲い掛かるのです。そのように、破壊者たる地水火風に依存する命に、みなが執着しています。ゆえに、生きるということは、終わりのない戦いになるのです。決して楽な営みではありません。常に危険にさらされて、なんとか死を避けている状態なのです。命には、そのように根源的な矛盾があることを理解しましょう。