智慧の扉

2007年6月号

苦楽を超越した「苦」の真理

アルボムッレ・スマナサーラ長老

世の中では、これが善い、これが悪いとすぐに判断します。「人生は苦しい」と言ったり、「いや楽しい、頑張れば何とかなる」と言ったり、そうやって白黒に分けようとします。仏教はそういう道を認めないんです。ちょっとしたことで全体的に善悪判断する思考では、真理には達することはできません。

ブッダが教えたのは、そういう感情だらけの自分を正す方法です。悟っていない私たちは感情で生きていて、「完全な判断」はできません。しかし、自分にできる範囲の判断はしっかりしないといけない。しゃべるときもすごく気をつけて、「自分の調べた範囲では、これこれである」と言うべきなのです。

お釈迦様は一言、「真理を守りなさいよ」と仰いました。その意味は、「何かを言う場合でも断定的にではなく、『私の知っている範囲ではこうだ』と言いなさい」ということなのです。「私の知っている範囲では」と一言を加えるだけで、その人は、「真理を知らない」けれど、「真理を守っている」のです。

ですから、今日からやってみようと心がけてください。人生が変わりますよ。真理を守って生きる人は、次に、「真理を知る」ために、心の中の感情的なセクションをなくそうと修行にはげみます。それが仏教の冥想です。感情の白黒判断を離れた人が、「生きることは苦である」というお釈迦様の説かれた真理を発見するのです。