智慧の扉

2009年1月号

衣に込められたメッセージ

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 テーラワーダ仏教の比丘がまとっている衣(三衣・袈裟)は、お釈迦様のアドバイスに合わせて、アーナンダ尊者がデザインされたものです。袈裟のデザイナーはアーナンダ尊者なのです。仏教が始まった当初、比丘の衣はただ布切れを適当に縫い合わせただけで、形もバラバラでした。しかし、せっかく仏教の比丘なのだから、衣に一貫性があった方がいいだろうと、衣のデザインが定められることになりました。

 そこでお釈迦様はアーナンダ尊者に対して、「比丘の衣を田んぼとあぜ道の形にしてはどうですか?」と提案されました。そこには深い意味があります。

 お釈迦様が生まれた釈迦族は、お米を食べる文化でした。釈尊のお父さん(浄飯王)は王家でしたが、領民と一緒に田んぼの手入れをする農民でもありました。稲作文化の人々にとって、田んぼは特別な存在です。自分達に命を与えてくれる聖地なのです。稲もただの植物ではなく、聖なる存在として扱うのです。スリランカでは、田んぼでは誰も傘をさしません、それは稲に対して失礼だと思っているからです。稲刈りをしてモミを取る作業以外では、稲を踏むことさえしないのです。

 田んぼをかたどって縫い合わされた衣を身にまとうことで、仏弟子たちは稲作文化の人々が持つ自然に対する感謝の気持ち、自我を張らない、自然に生かされているのだという謙虚な気持ちとともに修行してきたのです。

 そうやってアーナンダ尊者がつくられた衣のデザインは、二千五百年以上も変わらず、現在まで守り伝えられています。