智慧の扉

2010年1月号

ブッダは勝利を説く

アルボムッレ・スマナサーラ長老

仏教徒は、汚い勝負はしません。あいつに勝ってやるぞ、あいつより金儲けてやるぞ、といった勝ち負けには乗らないのです。しかし一方で、仏教は口を酸っぱくして「負けるな」と言うことがあります。それは、性格の弱みとの戦いです。私たちはいつでも、怒りに、欲に、負けてしまう。明らかに嘘だと分かっても、褒められたり、おだてられたりすると負けてしまう。そういった性格的な弱み、「だらしなさ」があります。しっかりした人間になるためには、その弱みと戦わないといけないのです。

それは、生まれつき性格の弱みに負け続けて奴隷身分に堕ちている私たちが、堂々とした王になるための戦いです。怒る人には、「怒らない」という戦いがあります。嫉妬する人は微塵も嫉妬しない人になる戦い、欲に負ける人は欲に負けないための戦い、気の弱い我々には精神的な巨人になる戦いがあります。その戦いに勝てば、自分は幸福になって、周りも幸福になるのです。

お母さんが怒らないように頑張っていると、家じゅうみんな幸せです。お母さんだけでなく、お父さんも怒らないように頑張ると、お父さんは気分がいいし、子供たちも気分がいいのです。そうやって、みんなが幸福になる戦いをブッダが教えたのです。そして、その戦いに勝つ方法は何かという攻略法も教えたのです。ですから、仏教は「敗者の教え」ではありません。「戦いには何としても勝ち抜け」という教えなのです。