智慧の扉

2010年2月号

智慧ある人の条件

アルボムッレ・スマナサーラ長老

サーリプッタ尊者、中村元博士、アインシュタイン博士……並外れた知識人には、一つの共通点があります。それは驚くほど謙虚な性格です。彼らは市井の人々や小さな子供たちにも別け隔てなく接して、知識を分け与え自分も学ぼうとする。それだけでなく、本人の思考も子供のようにシンプルなのです。

実は、人があれこれややこしく考えてしまうのは脳がうまく機能していない証拠なのです。働かない脳をいじめて苦労して学んだ人は、つい自分の知識に見栄を張ってしまいます。そういう知識人が、知識のない一般人を「バカじゃないの?」と見下すことは「怒り」なのです。かんかん怒ることばかりが「怒り」ではありません。自我を護るために脳の活動をストップさせる心の反応は、みな怒りです。一般の知識系の人々は、自分の知識に価値を入れることで、かえって自らの知識能力を壊してしまうのです。

一方、脳がフル回転している大知識人は、ただ軽々と世界を偏見なしに面白がって見ています。知ること自体が面白くてたまらないので、得た知識に執着しません。自我に邪魔されないぶん思考はシンプルだから、小学生でもその話を聞いて理解できる。しかもその思考は、人類に革命を起こすほど大胆なのです。

仏教では、智慧と人格は不可分だと口をすっぱくして言います。頭がいい人は、自我に邪魔されない人だから、必ず性格もいいはずです。ですから、智慧ある人は当然、謙虚なのです。また、謙虚な人こそ智慧を獲得するとも言えます。智慧の開発には、この両方の側面があるのです。