智慧の扉

2012年1月号

お釈迦様の教えとは?

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 仏教はお釈迦様の教えです。お釈迦様は「争いの世界で争わずに生きる方法、怒り憎しみの世界で怒り憎しみ無しに生きる方法」を教えたのです。「食うか食われるか」という弱肉強食の世界で、その悪循環から離れて生きる方法を教えているのです。世の中の人々は、「自分が食う側にいればいい」と思うかもしれません。しかし、食うか食われるかの世界で一貫して「食う側」にいられることはあり得ません。誰でも、いつか必ず食われてしまうのです。

 いまだに人類は「目には目を」の争いの世界に生きています。そんな残酷な世界にいても、心穏やかに生きる方法が仏教です。憎しみに満ちた世界で、憎しみは嫌だなと思う人がいれば、仏教は憎しみを離れるための方法を教えてあげるのです。ですから「殴られたら殴り返すぞ!」という人に仏教は必要ありません。仏教は、殴りあいの世界で殴ることから離れて生きる教えです。答えは殴り返すことでも、相手にもう片方の頬っぺたを差し出すことでもないのです。仏教は、殴ろうとする人に殴る気を無くさせる教え、奪おうとする人に奪う気を無くさせるような教えです。

 しかし仏教は、決して「宗教」として生き延びたいと思っているわけではないのです。「妄想して苦しむよりは、真理を知って落ち着いた方がいいでしょう?」というだけ。教えを広げたい気持ちはぜんぜんありません。信仰のために戦争でもやれ、というのが宗教の立場です。仏教は「どうしても布教したい」という教えでもないのです。「この薬を飲んだら治りますよ」と紹介しますが、「飲め!飲め!」と迫ることはしないのです。お釈迦様の仏教とは、そういうものです。