智慧の扉

2013年4月号

仏道と他者

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 仏教には、「自分さえ良ければいい」という話はありません。誰であれ、自ら心清らかにするべきです。しかし、他人にも真理を教えて、心清らかにする道を歩んでもらうことが最高なのです。

 お釈迦様は人間を四種類に分けます。①自ら心清らかにせず、他にも真理を教えない人。②他人に心清らかにすることを勧めるが、自分は真理を実践しない人。③自ら心清らかにするが、他には真理を教えない人。④自ら心清らかにして、他にも真理を教える人。このうち、④が最も優れています。その次は③です。②はかっこ悪い生き方です。でも、何もしない①よりはマシですね。

 誰だって、自他ともに心清らかにする④の生き方をしたいのはやまやまでしょう。しかし、自分にその能力があるか否か、現実的に考えたほうが無難です。私たちは自分の能力のレベルに合わせて、③を選んだ方がいい場合もあります。

 いずれにせよ、自分の修行のためにも他人をよく観察することが大切です。エゴがいかに危険か、慈しみがいかに大切かと理解するために、周囲の人をよく観察してください。たとえば犬を見たって、性格によって印象が違うでしょう。「こっちの犬は自我を張りすぎで狂暴。だから気持ち悪く感じる」「このワンちゃんは自我を張らないで周りにもやさしい。だから可愛く感じる」そうやってデータを集めるのです。

 人間関係でも他の生命との関係でも、やさしさにはやさしさを返したくなります。自我を張られると、攻撃したくなるものなのです。それが分かると、「私は幸福に生きたいから、決して自我を張りません、慈悲を育てます」と、自分を戒めることができます。まず自分を戒めて、他の人々に教えることにも挑戦しましょう。