智慧の扉

2013年9月号

覚りへの意欲を作る

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 仏道を完成するためには、自分の気持ちが大切です。覚悟を決めて、解脱への意欲を作らなければいけないのです。俗世間で意欲をつくるのは簡単です。欲望を刺激するだけですから。でも解脱するぞという意欲は簡単に起こせません。ホントは解脱したくないという「獣の心」が強いのです。

 俗世間には、人の判断能力をスポイルする洗脳(宗教家や政治家が頑張っている領域です)や、選択肢を見せつつ誘導して、微妙に相手に判断させるマインドコントロール(コマーシャルなど)の落とし穴が口を開けています。ひとの判断能力を一方的に奪う洗脳は断言的に悪いものです。治すのも大変です。しかし、マインドコントロールには良し悪しがあります。善い人間に導かれて、無理にでも道徳を守れば人格が育ちます。逆だったら最悪です。親、教師、上司、友人、恋人などなど、人生のなかでは様々な人や環境からコントロールされます。それは避けられないことですが、完全な人格者=釈尊に導かれない限り、完全に善い結果は得られないのです。

 仏教の結論だけいえば、解脱・涅槃こそ人間が目指すべき目的です。人間に生まれたなら解脱を目標にすべき。他には何の価値もないのです。でもそれは、正しい教えであっても、やはりマインドコントロールですよ。最初は釈尊に言われて冥想を始めても、解脱するためには、本人の心から生まれる意欲がどうしても必要なのです。ですから、なぜそんなに覚りたいのかと、正直に自分に聞いてみてください。仏教をよく学んで、四聖諦を観察して、それを自分や他の生命に当てはめて観て、「やっぱり解脱しかないのだ」と理性に基づいて解脱したいという願いを起こす。そこで覚悟が決まって、覚りへの意欲が生まれるのです。真っ直ぐに解脱への道を歩めるようになるのです。