智慧の扉

2015年10月号

欲から貧乏がはじまる

アルボムッレ・スマナサーラ長老

「欲」というのは豊かさの反対のものです。欲しい、欲しいと思うのは貧乏人でしょう。豊かな人は別に何とも思いません。ですから、何か私たちが切望し期待しているなら、そのポイントに於いて、私たちは貧困であり、貧乏なのです。

 貧乏な人は、何かを取ろうとします。そうすると、自然法則として取らせてくれないのです。ややこしいかもしれませんが、「生きていきたい」と必死で思うと、これは欲です。そうすると生きることが、ものすごく苦しくなってしまうのです。金がない、仕事がキツイ、奥さんに怒鳴られる、子供が言うことを聞かない、人間関係が崩れる、いろんなトラブルが起きるのです。そのようなサイクルになっています。
 
 例えば、自分は自由に生活したいのですが、家に寝たきりで介護が必要な家族がいるとします。それで自分の思ったような生き方ができなくなるでしょう。言葉がおかしいと感じるかもしれませんが、それも貧乏ということなのです。外へ出かけたいけど出かけられない。朝は遅くまで寝たいけど寝られない。そのように、自分の希望通りにいかないということは、希望を叶えるための資金・資源がないということでしょう。つまりは。貧乏という情況なのです。
 
 皆さんは貧乏という言葉を知っていますが、知っているのは「金がない」という意味だけだと思います。それをもう少し論理的に分析すると、「必要なものが手に入らない」という意味が現れてきます。手に入らないものに対する悩みを別な言葉で言い換えるならば「貧乏」ということになるのです。貧乏とは、「生きていきたい」という衝動から派生する気持ちの一つです。
 
 例えば、家に介護しないといけない家族がいる。その人は、「生きるということはそんなものだ。誰だって介護されるようになる。私だって同じだ。仕方なく生きているのだから、余計なことを考えず、その時その時の義務を果たしていけばいい」と思うのです。では、その人は貧乏と言えるでしょうか? 何も欠けているとは思ってないから、貧乏ではないのです。
 
 その人は、介護をしたり、料理を作ったり、朝から晩までいろいろやるべきことがあって忙しいのです。外へ出かけたい、休みたい、旅行に行きたい、などは邪魔で余計な思考にしか見えないのです。「豊か」と言える生きかたが、そこにあるのです。