智慧の扉

2017年11月号

幸せになるための因果法則

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 因果法則からものごとを見れば、どんなことでもあり得ます。過去の業と現在の生き方が微妙に絡みあって、酷い目に遭うこともあります。いくら善行為をして生きていたとしても、過去世の悪業が割り込んで、いきなり殺されることだってあり得るのです。

 お釈迦さまの二大弟子のひとりであった目連尊者は、現世では微塵も悪事をしなかったのに、はるか過去世の業の残りで残酷に殺されました。人々に愛を説いたイエス様が磔にされたのも、きっと過去の業のせいでしょう。

 世の中にあるのは因果法則だけです。しかし、人間に因果法則を知り尽くすことは不可能です。いろんなタイプの因果法則があります。たとえば、一つの企業が活動するうえでも、様々な因果法則のモジュールが組み合わさっているのです。それどころか、「私は幸せ」という個人的な感覚にも、宇宙の状態までもが深く関係しているのです。

 因果法則は知り尽くせないほど複雑に絡み合っているものです。だから、仏教では「因果法則を全て知る必要はない。解脱に達するために必要な因果法則だけ知ればよい」と教えています。「解脱に達するため」という言葉がわからなければ、「幸せになるため」と言い換えてもいいでしょう。それならば、私たちにも知ることが可能なのです。

 幸せになるための因果法則は様々に説かれますが、今回は「心の影響力」というポイントだけお話しします。よく理解してください。個人個人は、煩悩(感情)で繋がることによって、力強くなります。大きなことができるようになるのです。物質と同じく心もまた、強いエネルギーが弱いエネルギーに影響を与えます。ひとが他者の心から影響を受けることを、完全に断つことはできません。これも因果法則の決まりなのです。

 一人ひとりが他の影響を受けることは仕方ありません。しかし、どうせ受けるならば、「良い影響だけ受けて、悪影響は受けません」と決めることです。つねに精進して、悪影響を受けないように努めないといけないのです。

 他の影響が避けられないとしても、自分の心に責任を持てるのは自分だけです。他人に向かって「あなたは怒るな」と命令しても無意味です。私にできるのは、私が怒らないことだけ。ひとを助ける唯一の方法は、自分の心を清らかにすることなのです。自分が清らかな心を育てていれば、精神的に悩む他の人々を助けてあげることもできます。自分が穏やかにいることで、周りも幸せになっていくのです。