智慧の扉

2020年4月号

言葉の海の泳ぎ方

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 私たちは「おはよう」の挨拶から始まり、寝るまでずっとしゃべっています。言葉の意味もわからないまま、生まれてから死ぬまでしゃべり続けます。子どもたちも結構しゃべりますが、何を言いたいのか本人もわかっていません。憶えたての少ない単語を、繰り返ししゃべるのです。世の中はしゃべりまくっていますが、すべてを聞く必要はないのです。人は何かを伝える目的でしゃべりますが、ほとんどが無駄話といっても過言ではありません。しゃべっているとき、必要なことを伝えようとしているのか、ただうるさいだけなのか各自で確認した方が良いのです。もし何もメッセージを送信していないのなら時間の無駄です。
 
 無駄話の原因は、貪瞋痴の感情です。誰もがしゃべりたくてたまらないのです。特に無知に支配された思考・妄想が原因です。欲や怒りという感情に支配されると、その感情に言葉を乗せてしゃべるのです。無知があると激しく妄想しまくり、妄想に言葉を乗せてしゃべる。その場合、自分が妄想したすべてをしゃべっているわけではありません。妄想の結論だけ言葉にしてしゃべっているのです。人の妄想話を真面目に聞いてしまうと、自分の心も悪感情に染まるはめになります。これにはなかなか気づきません。人の話を聞いただけで、自分の心を汚し、罪を犯したことになる場合もあるのです。大事なポイントです。今日から気をつけてください。
 
 仏教徒として、人の話を聞くときに注意すべき8つのチェックシートがあります。第1、論理的かどうかチェックしてみる。感情的ではいけません。第2、証拠があるかチェックしてみる。特にネットからの情報は、大半が信頼できないいい加減なものです。無責任な発言、悪口だけです。第3、話す人が自分の主観・感情・感想をしゃべっているのかどうかチェックする。第4、自分にとって役に立つ話かどうかチェックする。

 第5、自分の知識のプラスになるかどうかチェックする。第6、話を聞くと自分の心が不安になり困ることになるかどうかチェックする。第7、話をした方が良い雰囲気(タイミング)かどうかチェックする。第8、文化的・習慣的に交わさなくてはいけない話かどうかチェックする。挨拶などのことです。みんな長々と挨拶することに拘ると、なかなか本題に入りません。挨拶も無駄話になるのだと理解してください。この8つをチェックシートにして人の話を聞いてください。人間は言葉という海の中で、気をつけて泳がなくてはいけないのです。