智慧の扉

2020年6月号

出家サンガとはなにか?

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 釈迦牟尼仏陀は「saṅgha, saṃgha(サンガ)」という仏教徒の組織(集団・共同体)を作りました。仏教徒には出家の比丘、比丘尼、在家の優婆塞(男性)、優婆夷(女性)という四つのグループがいますが、サンガという場合は一般的に出家サンガのみを指します。出家サンガに属する僧侶たちは、組織の仲間ではない一般の人々にも真理を教えて助けるのです。その出家サンガを一般の人々が布施によって支えるというのが、古代から現代まで続く仏教のあり方になっています。

 仏教の出家サンガは煩悩を断ち、解脱に達することを目的とする組織です。出家サンガにおける生活はすべて、お釈迦さまが定められた戒律(vinaya)によって精密に運営されています。サンガに集う出家仏弟子は全員が覚っているわけではありません。出家者の中にも、まだ自我の錯覚が残っている人はいます。しかし、戒律を守って集団生活することで、おのずと自我を張れなくなるのです。

 個人個人の資質には差があるから、さまざまに失敗を犯す人も現れます。先輩や後輩、経験者や見習いという差は当然あります。しかし、サンガのメンバーは皆平等です。一切の人種差別も出自の差別も認めません。経験豊かなアドバイザーはいても、サンガの支配者はいません。ですから、誰かが悩んでいるとしたら、サンガの中の誰にでも助言を仰ぐことができます。たとえ個人が過ちを犯したとしても、それを正す方法は組織の決まりとして設定されているので、特定の個人をやり玉に挙げて批判したりされたり、非難したりされたりという問題も起こりません。お釈迦さまはサンガ組織を作るにあたって、人間の組織でありがちな問題を予め解決しておいたのです。正等覚者たるブッダが完璧にルールを定めたので、弟子たちはその決まりに従えばいい。釈尊の戒律以外に権威を求める必要はないのです。
 
 サンガとして何かを決める場合、多数決ではなく全会一致でなければいけないのです。かといって、反対者に我儘が認められているわけではありません。異論を立ててもいいが、その場合、その意見がブッダの教えと戒律に従ったものでなければ無効になります。異論を出す側にも、かなりの責任が伴うのです。

 出家サンガは煩悩を断ち、解脱に達することを目的としているとお話しました。解脱に達する修行は個人の宿題です。誰かが他人の修行について個人攻撃するということは成り立ちません。個人が、戒律を守りたくない、あるいはブッダの教えに反対という気持ちになった時点で、サンガのメンバーシップは自動的に失われます。そういうわけで、個々人の資質はバラバラであっても、出家サンガはいつでも清らかに保たれて、堕落・衰退しないのです。

 出家サンガにならって在家の組織を作る場合も、個人個人の性格の差をあげつらうことを止めて、常に組織の目的から脱線しないように活動したほうが、組織が衰退することなく長持ちすると思います。