智慧の扉

2021年5月号(174)

道に迷わない生き方

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 幸福に生きるための確実な道を選べるでしょうか? 私たちは、何をしても「これで良かったのかな?」という迷いを持ってしまいます。例えば、結婚を間近に控えた人が、「本当にあの人で良かったのかな?」と迷うことがあります。長い間付き合ってお互いを理解してきたつもりでも、結婚式前日になると「人生のパートナーとして本当に大丈夫かな?」と思ってしまう。また仕事でも「この仕事を続けていて良いのだろうか?」と不安に感じることもあります。
 
 お釈迦様は、人生に疑問や迷いが生じない道を選びなさいと教えています。曖昧で中途半端、一か八かの賭け、何事も「やってみなくちゃわからない」と、そんな態度はやめた方が良いのです。生きることに対して、迷いが生じない道を選ぶ技術が仏教にはあるのです。これをパーリ語で「apaṇṇaka paṭipadā【アパンナカ パティパダー】」と言います。日本語訳としては「無戯論道」と言われます。物事を知り尽くす(遍知)ことができない私たちは、どうやって迷いが生じないような道を選ぶのかというのは、とても難しいことです。
 
 そこでお釈迦様は、疑問や迷いが生じない生き方は四つあると説かれました。話は簡単で、お釈迦様が説いた四つの生き方を選べば良いということです。これは仏教でよく言われる「中道(超越道)」を他の言葉で言い換えた教えです。この四つの生き方を選べば、絶対に損はせず、幸福に至る道が始まるのです。では、その四つとは何でしょうか?

 ①持戒:道徳を守ること。つまり、貪瞋痴で心を汚さないように生きることです。②多聞:よく学ぶこと。しっかりと知識を得るためには、思考が柔軟で自由であることが大切です。あらかじめ偏見を持ってしまうと、必要な知識を得ることもできなくなります。心をオープンにして学ぶ生き方をするのです。③精進:人格向上に励むこと、怠けないことです。善悪を理解し、人格を成長させる生き方です。④智慧:いわゆる一般的な知識と智慧はずいぶん違います。知識は外から入れるもので、智慧は内から顕れるものです。

 自己観察によって智慧が顕れます。この四つの道を歩めば、生き方に疑問や悩みが生じなくなります。人生が、幸福へと進む一本道に整えられるのです。