智慧の扉

2021年9月号(178)

幸福になるための四条件(上)「生きる環境を選び、良い人間関係をつくること」

アルボムッレ・スマナサーラ長老

 ブッダは、人生を幸福に導くための四つの条件を説かれました。今回はそのうちの二つを紹介します。

 第一は「環境」です。〈ふさわしい地域に住むこと〉と理解しても構いません。幸福になりたければ、自分の良さを発揮できる環境・場所を選んでください。持って生まれた能力、訓練や教育によって身につけた技術を活かして、安楽に幸福に生きるために適した場所がどこかにあるはずです。自分の性格が生まれた社会・文化と合わない人も当然います。日本で勉強をしてフランスで仕事をする人、アフリカで勉強して日本で仕事をする人もいます。そうやって、世界のどこかに自分の能力を活かせる場所を見つけなければいけないのです。

 現代社会では、民族や宗教やイデオロギーによって地球に国境線を引き、互いに差別し合って、人々の動きを制限しています。大昔のホモ・サピエンスたちには、国境などありませんでした。皆、大陸沿いに歩いて、あるいは舟で海に漕ぎ出して、地球のあちこちを移動したのです。現代の私たちもまた、この地球の中で適切な場所、相応しい環境を探して歩き続けなければ、やがて退化して滅びてしまうでしょう。
第二は「人間関係」です。人は自分が持つ性格に合うグループに参加して、その人間関係のなかで知識・能力・習慣・生き方・職業などを周りから教えてもらうのです。生きるために必要なことは、すべて他人から学ばなくてはいけない。人が何者になるのかということは、人間関係によって決まります。

 ですから、幼いころから人間関係に気をつけましょう。気が合うからと誰とでも付き合うのではなく、相手の性格を選んで付き合うべきです。人間関係の大切さを示す良い例はアングリマーラ尊者でしょう。優秀な学生が性格の悪い師匠との関係によって殺人鬼に堕ち、その殺人鬼がブッダとの関係によって聖者になったのです。

 とはいえ、自分の性格は人間関係に完全依存しているわけでもありません。師匠・先輩・善友などの教育・躾(しつけ)を受けながら、そこから自分自身で人生を築かなくてはいけないのです。私たちは親や師匠が教えることを100%聞き入れているわけではありません。ブッダさえも、その真理の教えを「あなたの性格にも合わせて実践してください」と説かれています。人間関係によって人は成長しますが、「幸福になるのはあくまで自分の仕事だ」と肝に銘じておきましょう。(続く)