根本仏教講義

26.人生改良計画 2

無駄な思考をやめる 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

私たちは「自分を向上させたい」「改良したい」と考えてさまざまな試みをし、頑張ってはいますが、結果はすべてあだになっています。これは「自分を改良」するのではなく、「外の世界を改良」しようとしているからです。その結果、さまざまな苦しみが生じているのです。
(前号から続きます)

ある食べ物を見て「これはどうすればおいしくなるか」と考えるのではなく、おいしく感じられるように自分の身体を適応させることが大切です。そうすると身体の能力が成長するのです。顔の肌が荒れて困っている人は、いろんな化粧品を塗って肌の荒れを隠すのではなく、肌が環境に適応するように肌を改良すればよいのです。化粧品には結構刺激の強い物質が入っていますから、そういうものを毎日顔に塗っていると肌が痛み、老化しやすくなります。ですから自分の肌を強くしたほうがよいのです。寒さや暑さなどの自然の問題に適応するのはあなたの仕事だよ、と身体に教えてあげてください。そうすると細胞が生き返って元気になるでしょう。お化粧をしない女性は、歳をとっても比較的、肌がきれいです。若いときに見たら「なんだこれ」と皆さんは思うかもしれませんが、そういう人は歳をとったとき、しわは出ますが肌が荒れることがなく、きれいなままでいられるのです。

私たちは自分の身体の適応能力を育てるべきなのに、それは置いておいて外のモノに頼っています。そうすると当然身体の能力は弱まっていきます。これは改良ではなく、逆の方向に向かっているということです。

改良すべきものは何?

俗世間の「合理的にする」という考え方は別に悪いことではありません。便利にしたい、快適にしたいという考え方は別に悪いことではないのです。ただ、それだけでは足りないのです。ものごとを合理的にやりたいなら何が必要でしょうか。合理的に考えるのは誰ですか? 自分です。ですから改良すべきものは「自分の思考」なのです。つまり「非合理的な思考はしない」という性格を育てなければならないのです。
正しい改良とは「自分が合理的になる」ということです。合理的というのは「理屈っぽい」という意味ではありません。ものすごく理屈っぽい人もいますが、そういう人たちは非合理的で、非論理的で、他人を侮辱して、凶暴です。頭が混乱し、一生懸命「これはどうか、あれはどうか」と考えて悩みますから、大変苦しんでいるのです。

合理的な思考とは?

では、合理的な思考とはどのようなものでしょうか? これは、無駄をなくして「この問題にはこれが答えです」とちゃんと問題と答えを発見できることです。何かを考えるとき、データに基づいて客観的に考え、結論を出し、きれいに終わることです。逆に「引きずる思考」はよくない思考で、論理的ではなく、無駄な思考です。何らかの考えを引きずって、なかなか忘れられないでいるなら、それは妄想であり、自分を駄目にします。ですから何があってもサッサと考えて終わりにしてください。無駄な思考はやめるのです。
「合理的な生き方」はお釈迦さまが推薦する正しい生き方です。そこで、外のモノに合理性を求めるのではなく、自分の心、自分が無駄な思考をしない、役に立たない思考をしないという生き方をすることが大切なのです。

無駄な思考をやめる方法

無駄な思考をやめる方法を一つご紹介いたしましょう。

「これを考えたら私のためになりますか、幸福になりますか」と、自分に問いかけることです。何か考え方を引きずって悩んだり落ち込んだりするのではなく、こう考えてみてください。

この思考は
・自分のためになるか、ならないか
・役に立つか、立たないか
・幸福になるか、ならないか
・他人の役に立つか、迷惑をかけるか
このように自分に問いかけると、思考はそこでストップするのです。

思考をケチる

皆さんはお金に対してはすごく厳密でしょう。十円でも安く売っているなら一キロ先でも歩いて買いに行く人もいるほどです。

お金の場合はそんなに厳密になる必要はないのですが、思考に対しては厳しくならなければなりません。なぜでしょうか? 生き方はすべて思考から現れるからです。思考は一番ケチったほうがよいものなのです。皆さんは、考えることは無料だと思っているようですが、実はものすごいお金がかかっています。お金を無駄に使っているのは、思考のせいなのです。たとえば日本の経済状態を見てみますと、表面的には景気が回復したと言っていますが、現実を見るとあまり回復していないと思います。かつては経済的に世界のトップにいたにもかかわらず、立ち直らないところまで堕ちてしまったのはなぜでしょうか? これは思考の問題なのです。思考でものすごい損をしています。無駄な思考ばかりで、役に立つ思考はありませんでしたし、今もありません。関係者の方々の思考を観察してみると、国や国民のことよりも、自分の立場や権力のことを考えている人がほとんどです。ですから立ち直ることが難しいのです。

とにかく思考にはよく気をつけてケチったほうがよいのです。思考はすごく危険なものです。
ですから有益なことのみを考えて、「これで終わり」ときれいに止まってください。結論を出して、すぐに終わるのです。

考えているときも「いま何を考えていますか」と、自分の思考を観察してみてください。また、考えるためにはいろいろなデータが必要ですから、データの範囲内で考えているかないかということを観察することも大切です。データからはみ出して考えると必ず不幸になります。

思考はデータの範囲内で

テレビのワイドショーやニュースの解説を見てください。いかに思考がおかしくて、間違っていて、好き勝手なことを言っている番組が多いでしょうか。なかにはすごく気持ち悪くなる番組もあります。本当はデータがないにもかかわらず、情報を捏造し、作り立てているということが、ちょっと観察すると見えてくるのです。そういう偽りの自分勝手な妄想の情報がいったんマスコミで流れると、情報のない視聴者はその通りだと思ってしまいます。そこで、情報を受け取る側の私たちも、ニュースで言ったからといってそのまま鵜呑みにしてはなりません。この人にはデータがあるのかないのか、データをどのように解説しているのか、と考えることも大切になるのです。

とにかく私たちは無駄な思考をしているため、頭が混乱していて、何も考えられない状態になっています。私たちが二十四時間考えていることというのは、ほんとうは二十四時間かかりません。ほとんど二、三分で考えて終了することができます。ですから「役に立たない思考は絶対しません」と決めて、思考をケチったほうがよいのです。

(次号に続きます)