施本文庫

ブッダの経営論

ビジネスリーダーの人間力 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

ストレスは怒り

最後に、ストレスとは何なのかという話をします。ストレスについて、いろいろな人たちがいろいろなことを言いますが、仏教の立場から見ると、ストレスというのは怒りです。怒りは猛毒です。智慧も能力も体力も精神力も、すべて破壊するのです。怒りというのは、強力なウイルスかガン細胞だと思ったほうがいいです。治療法はありません。
あるお医者さんは、「人間にはストレスがあって当たり前だ」と言いますが、それはその方の知識の範囲の発言で、本当はストレスなく生活することはできます。怒りなく生活することです。

気に入らないことをやるとき、やられるとき、それから自信がないのに何かをしなくてはいけないとき、ストレスがたまります。それから希望通り、計画通りにものごとがいかないとストレスがたまってきます。また、人間というのは時々見栄を張るのです。あまり能力もないのに見栄を張るので、かなりストレスがたまります。それから、頭の中に余計な夢があると、またストレスがたまります。
つまり、ストレスというのは怒ることであって、怒りは自分の能力をむしばむ怖いものだと憶えておいてください。それを憶えておけば、いくらかストレスは解消できると思います。

では、ストレスをなくしてしまうためにはどうすればいいのでしょうか。笑ってしまえばいいのです。簡単なのです。なぜ、私たちは笑わないのでしょうか。とにかく笑ってみてください。

私は悪い状況に置かれれば置かれるほど、冗談を言います。例えば、乗る予定の電車に乗り遅れると、予約した指定席でなく自由席に座らなければなりませんから、やはり悔しいのです。でも、私はそう思いません。なぜなら、その電車に乗ったら、次の電車に乗れなかったのですから。「乗り遅れて悔しい」ではなくて、「次の電車を三十分待って気持ちよく乗りましたよ」と考えるようにしています。今ある状況を、喜びに変えるのです。

「嫌だ」と思う感情がストレスになってしまうのです。確かに遅刻することはよいことではありませんが、でもしてしまったら仕方がありません。人間はいつも完璧には生きていられません。時にとんでもない失敗や、間違いを起こします。だからといって、それをストレスにするのではなくて、ぐるっと変えて面白くしてしまえば、どうということはなくなってしまうのです。

充実感は最高の財産

仏教には、「サントゥッティ santuṭṭhi」という大事な言葉があります。これは満足、充実感、喜びという意味の言葉です。
お釈迦様は「最高の財産は喜びである」とおっしゃっています。金ではないのです。金が必要なのは、楽しむためです。だから、楽しみが一番大事なのです。喜びが大事なのです。充実感が大事なのです。喜びというものが心にあるならば、ストレスは生まれません。

皆さんの脳細胞も、喜びがあると成長するのです。仕事が楽しければいくらでもやる。勉強が楽しければいくらでもやる。脳にはいくらでも力があります。
なぜ私たちはその力を発揮できないのかというと、楽しくないからです。楽しくないと脳がブレーキをかけて動かないのです。私たちの脳は、楽しみという燃料で回転するのです。だから楽しみ、充実感、満足感は大事なものです。それでいくらでも成長します。

充実感があると、けんかもしませんし、人がちょっと失敗しても「まあいいや」という感じになるし、「気にすることではない。何とかしましょう」となります。充実感がないと、我慢できないのです。とにかくそうやって、人生は瞬間、瞬間を喜んでください。

仕事とは人を助けること

仏教的には、仕事というのは人を助けることなのです。人を助けたら、助けた人が「助かりました、どうぞ気持ちよくもらってください」と、ご褒美をくれるのです。それが皆さんの収入であって、儲けであって、利益なのです。決して「強盗」の結果ではありません。仏教では盗まないという戒律がありますが、その場合の盗むということの定義は、「与えられていないものを取ること」です。

現代の社会の仕事というのは、与えられていないものを取っているのです。いろいろなごまかしや、変なコマーシャルをして、要らない品物を作って、それが必要であるかのごとく宣伝して、買わせている。これは人から奪う行為であって、仏教から見れば「盗み」です。盗人は幸せになるわけはないし、天国に行けるわけでもありません。

お釈迦様は、天国に行く商売方法も教えています。天国に行ける仕事というのは、人を助けることであるとおっしゃっています。人を助ける、人の役に立つことをする。それが、私たちがするべき仕事です。人の助けになることを一生懸命していれば、必要なものは何となくそろってきます。それはなくならないし、誰も持っていきません。どんな会社もそれを目的として経営すれば、気楽に利益を上げることができるのです。

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ブッダの経営論
ビジネスリーダーの人間力 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2013年