ブッダの経営論
ビジネスリーダーの人間力
アルボムッレ・スマナサーラ長老
Q&A
質疑1:時間の制約について
Q:今日教えていただいた四つの中では自分には愛語が足りないと、自己反省しながら聞いていたのですが、ビジネスの世界においては決算など、決められた時間があります。その制約の中で、今スマナサーラ長老がおっしゃられたことが実行できないというか、断念するような場面も時にあるような感じを持つのですが、そういったものをどう超越していけばよいのか、教えて頂けますか?
A:仏教から見れば、時間がないという理由は成り立たないのです。我々は、やりたいことを非論理的にたくさん積み重ねてしまうので、時間を食ってしまうのです。どんな行為でも時間を取るということを、皆忘れているのです。時間は止まりません。今日は何をしようかなと思った瞬間も、時間は経過しているのです。
だから時間は非常に節約しなくてはいけないのです。あれもこれもと幾つも計画を立ててしまうと、本当は二つやると一日の時間は終わるのに、まだやりたい、やりたかったということが残るので、すごく気持ち悪いのです。
だからそのあたりは現実的になって、優先順位をつけてカットしていけば、問題は解決すると思います。「時間がない、時間がない」と言っても、時間は延びてくれません。我々はある時間の中で一番大事な仕事だけして、ほかは管轄外、関係ないとするしかありません。
質疑2:正しいと信じる拠り所
Q:必要なこと、正しいこと、人に役立つことが大事なことはわかったのですが、正しいと信じる拠り所はどのように求めればよいのでしょうか。
A:これは大きなテーマです。いろいろなアプローチで見なくてはいけません。例えば、生き方としてはどちらが正しいか、仕事においての判断はどちらのほうが正しいか、家庭の中での判断、いろいろなことによって基準は変わります。しかし、普遍的に正しいと決める方程式があるのです。自分のためになる、自分に関係ある人々のためになる、それから一般的に見ても誰のためにもなる。そういうものであるなら、正しいと断言できるのです。
自分のためにはなるけれど、家族に迷惑をかけるならば、正しさはほんのわずかなのです。自分と家族と会社の人たちのためにはなるのだけれど、国が嫌だと言うのならば、やはり却下されます。たくさんの人々の役に立つという基準で決めるというのが、お釈迦様がおっしゃっている方法です。これは行為の場合です。
それから、心の中から見れば、自分が何を考えても、それが欲や怒りや無智から発しているならば、正しくないのです。すごいことを考えついても、基本が欲だとかなり危ない。ですから、清らかな心で決めるものは正しいと考えればけっこう当たります。
そこに五人いて、五つの考え方でそれぞれが「私は正しい」と言う場合は、五人とも正しくないのです。だから本当に会議には意味がないのです。ある側面でしかものごとを見ていません。それなら五人の考え方をまとめたらどうですかという意見が出てきそうですが、この六番目の考え方も間違っているのです。これは単純な数学で、20%の欠陥がある考えをいくらまとめても、それは正しくないのです。
ですから、五つをまとめるのではなくて、もう一つ別のことを探すのです。これはお互いに話しているとひらめくのです。それには相手の意見を否定してはいけません。「あなたはそう考えているのですか。なるほど。しかし、私にはこういう欠点が見えます。ではみんな、どうしましょうか」「だったらこうすれば問題ないでしょう」という話し合いで、別の立場が見えてくるのです。
これが、仏教でいう「中道」ですが、中道と言うと言葉がよくないのです。本当は、これは「超越道」と言わなくてはいけないのです。真ん中はだめなのです。中道というのは、真ん中という意味ではないのです。いわゆるどちらにも頼らない、中立ということなのです。だから幾つかの意見がある場合は、全部の意見を配慮して、どちらにも入らない何かもう一つの案を見つけたほうがいいと思います。そうすると、誰も負けたことになりません。
例えば、自分の意見が却下されて、友達の意見が通ったら、自分の負けです。それは嫌です。あるいは友達を強引に抑えて自分の意見を通してみても、その人は気持ち悪いでしょう。だから、それはよくないのです。
そうではなくて、どちらでもなくもっとよいことを探し出します。単純に意見を合わせようではなくて、客観的に長と短というか、ベネフィット、メリットと、デメリットを考え合わせてみて、チャートを作って、それで計算して持っていくと、ではこういうことになるのだというもう一つの案が現れてくる。それは五人の意見を合わせたわけではなく、それを材料にして新しい結果を出したということです。正しいことというものは、そのように求めるのです。
この施本のデータ
- ブッダの経営論
- ビジネスリーダーの人間力
- 著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
- 初版発行日:2013年