施本文庫

初期仏教の「女性・男性」論

~女性こそ社会の主役、男性は暇な脇役です~ 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

心には性別がない

身体(物質)の性別については語りました。では、次に心の性別を考えてみましょう。心に性別はあるでしょうか? 実は、心には性別がないのです。心が無色透明だとして、男性色、女性色という物質の色が心に色移りする。そんなイメージです。
身体が女性なら、その身体に宿る心は女性的な感情・思考を持つことになります。男性の身体に入った心は、男性的な好き嫌い・感情などをつくったりします。

小さな女の子に男の子用のおもちゃをあげたら、男の子と同じように遊びますね。子どもは小さいときには、身体はあまり強くないのですが、心のエネルギーは強烈にあります。すごく元気に遊びまわります。それは、心がパワフルだからです。心があまりにもパワフルですから、いくら遊んでも疲れません。

そして、この時期の子どもの中では「男」「女」という性別意識は、ほとんどありません。子どもを男や女に成長させるのは親です。生まれてきた男の子にお人形さんをあげれば、人形と遊びます。小さな女の子に電車や車のおもちゃをあげれば、それで遊びます。時々お母さんがお化粧をするのを見て、小さな男の子でもあちこち顔を塗ったりすることがあるでしょう。お母さんが「何をやってるの! あなたは男の子でしょう」と言っても、その子にはよくわかりません。「なぜ、塗って悪いのかな」と思うだけ。お化粧に性別をつけたのは人間ですからね。世間にある性別意識というのは、親が刷り込むものなのです。

「男らしい」「女らしい」に傾く心

「男らしい」「女らしい」というのは、社会が決めることであって、本質的なものではありません。女心、男心などというのは演歌の世界の話です。
しかし、身体は心に影響を与えるのです。女の身体、男の身体が、性別を持たない心に影響を与えます。女の身体を持っている生命の気持ち・思考・感情・生き方などは、「女性」という方向に傾きます。男性も同様です。肉体の影響を受けて、心の機能が女性のほうか男性のほうへ傾いていきます。

また、心に性別がないわけですから、当然煩悩にも性別はありません。
しかし、煩悩も身体と心を通じて出現します。ですから、現象としては、男の欲、女の欲、男の怒り、女の怒りという差が見えます。怒りを女の身体で表現すると「女の怒り」。怒りを男の身体で表現すると「男の怒り」となる、ということなのです。

さらに、逆向きの作用もあります。心が身体を管理するのです。過去世の影響もあって、思考・感情(心)が女性的になったら、たとえ身体が男性でも心に合わせて変化します。たとえば過去世は女で、今世は男だとします。過去世では女でしたから、心は女色に染まっています。価値観・思考が女性のほうへ傾いているのです。そこに突然、新しい男の身体をもらったわけですが、その身体を維持する心がまだまだ女性的だった場合、アイデンティティーの問題が起こります。日本でも性同一性障害と呼ばれているケースなどがありますね。しかし、これは仕方ないことで、ただ単に、心は長いあいだ訓練した方向に行きやすいというだけのことなのです。
ですから、わざわざ男性が女性になる必要はなく、身体を見て男だったら、男のしきたり・習慣・価値観を身に付ければいい。身体を変えないで心を変えればいいのです。なぜなら、心には性別はないのですから。

女の人でも過去世で男だと、どこか心が男性的なのです。男であった心が女の身体に入り込んでしまうと、「困った、どうしよう」ということになってしまいます。
しかし、もともと心には性別がないのですから、そこを理解して以前の性の癖がついてしまった心を訓練すればいいのです。そうすれば今現在の身体の影響を受けて、身体の性色に心が傾いていきます。

異性の性質は持っていない

現代の社会では、「誰もがある程度、異性の性質も持っている」と言います。世間ではよく「男性でも女性でも男性性と女性性を持っている」と言っています。男にも女性らしい気持ちや機能があり、女にも男性らしいところがあると。
しかし、仏教はそうは考えません。ただ先ほどお話ししたように、輪廻転生を踏まえれば、「心の中にいくらか異性の性質を持っている」というのは(うなず)けます。性別というのは、輪廻転生の中である程度で変わりますから、「女に生まれたのに、どうもしっくりこない。自分は男なのに」などという気持ちは生じ得ますし、逆もあり得ます。この場合、心を変えるほうが理にかなっています。

心というものは性別がなく、どんな妄想でも可能でマインドコントロールがききます。心は変えられます。気持ち・感情も変えられます。教育や訓練によって、いくらでもマインドコントロールできるのです。男性の心を完全に女性の心に変えることも、女性の心を男性の心に変えることも、マインドコントロールで可能です。

心の影響は身体にも現れる

たとえば、女の子を「ずっと男の子が欲しかったから」といって、親が小さいころから男として育てたとします。実際にそういうケースがあります。おもちゃも、服も、しゃべり方も、遊びも、何もかも男の子として育てます。これは、「身体は女の子である一人の人間に、男に成長する方向性を帯びた心の教育をする」という行いです。この心の教育がうまく進むと、身体にも影響があります。その女の子の身体の発達が、一般的な成長でなくなったりするのです。年代とともに起こる身体の変化が遅くなったり、起きなかったりするのです。

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この施本のデータ

初期仏教の「女性・男性」論
~女性こそ社会の主役、男性は暇な脇役です~ 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2011年