智慧の扉

2012年7月号

ブッダの真理と道徳

アルボムッレ・スマナサーラ長老

「ブッダの教えは宗教と関係ありません。『地球が丸い』と同じく異論が成り立たない真理です。」私が説法のなかでよく強調するポイントです。しかし「地球が丸い」という真理と、ブッダが説かれた真理には、明確な違いがあることも事実です。

 地球が丸いという言葉は真理です。しかしそこから道徳的な教え、人間の生き方の指針になる教えを導き出せるでしょうか? 何もないのです。ブッダの教えはどうでしょうか? 先月号で紹介した「生命は『害を与えてはいけない』性質である」という真理を思い出してください。その真理はそのまま「生きものを殺してはいけない」という道徳になるでしょう。このように、ブッダの説かれた真理は道徳と不可分なのです。

 他の例を考えてみましょう。「諸行無常」は誰でも知っている仏教の教えです。この真理は道徳と結びつくでしょうか? ブッダは、<「私が生きている」ではなくて、「生きる」というファンクションのなかで煩悩が現れては消えて、また現れる。生きるということは汚れだらけの流れに、苦しみだらけの流れになってしまう。それを清らかな、安楽な流れに変えなければいけない>と説いて、「諸行無常」の真理から道徳を導きだすのです。

 五根に触れる情報は、無常であり、苦であり、変わるもの。ろくなものではない。たまに心地良いものが触れても、すぐ変化してしまう。そう自ら理解すると、心が安定するのです。心を清らかに保つことができるのです。そこで「諸行無常」という真理が、「心を清らかにするべき」という道徳として成立するのです。このような真理と道徳の不可分性こそが、ブッダの教えの偉大なる特徴なのです。