智慧の扉

2015年7月号

こころ豊かになる道

アルボムッレ・スマナサーラ長老

「あげる(お布施)」とは、どういうことでしょうか? これは命あるものの“義務”なのです。「あげる」ということは、偉そうに言っているような道徳的なことではありません。私が生きているなら、生きていきたいと思っているならば、「あげる」という行為をしなくてはいけないのです。あげるという行為がないと、「生きる」ということも成り立ちません。
 
 すべての生命は、Give and takeで成り立っているのです。この順番を憶えておいてください。先にあげることから始まります。実はこのtakeというのは、正しくありません。ですから私はその単語を「receive(レシーブ)」に訂正しました。正しくは「Give and receive」です。「あげて、いただく」生き方をしなくてはいけません。
 
 いろんな宗教でも「お布施しなさい」と言っていますが、宗教が言わなくても生命である限りは、必ずしなくてはいけない義務なのです。生命を調べると、生命はお互いに協力し合って生きています。協力が無くなった瞬間に死ぬのです。これが基本的な法則としてあります。宗教が後から割り込んでくる必要はありません。宗教のせいで日本の社会でも、「あげる」ということは、特別なことであって、あまり良く思われないことになってしまっています。
 
 他の生命を助ける・協力することで、自分自身が、生きる権利を獲得することができます。生きる権利を持っている人は、生きられます。
 
 この世の中には、財産があっても、とても貧しく、貧困のどん底に陥っている人々もいます。これは精神的な貧困なのです。そういう人々は、いつでも「得る・取る・儲ける」ことしか考えていません。自分に得・利益・見返りがないと、他人には何もしてあげないのです。そのような思考では、なんの豊かさも味わっていないことになります。
 
 ということで、私たちは生命法則・生きることの義務として、生命を助けてあげなくてはいけないのです。人間を助けるに限ったことではありません。生命は動植物などのお蔭で命が成り立っているのです。生きるということは、他の生命に相当な借りがあるということでもあります。それを返さなくてはいけません。それが心身ともに豊かになる道なのです。