2022年4月号(185)
十二因縁イコール因果法則という誤解
お釈迦様は、「因果法則は難しくて深淵な教えであって、決して簡単に理解できるものではない」と注意なさっています。しかしほとんどの人はそれをあまり気にしないで、十二因縁(十二支縁起)こそが因果法則だと思っています。テーラワーダ仏教で重要視される『清浄道論』でも、因果法則イコール十二因縁のことだと捉えているほどです。
しかし、それは誤解なのです。因果法則というのは十二因縁という枠組みだけで説明できない、もっと遠大な真理なのです。たとえば、空性【くうしょう】の教えも因果法則の一つです。
因果法則と十二因縁の関係について、次の喩えで理解してみてください。誰かが、「あなたに宇宙のすべてを見せます」と言って地面を指差して「私の立っている地面だけが宇宙だ」と言い張ったとしたら、どう思いますか? 呆れ返ってしまうでしょうね。自分の立っている地面も宇宙の一部には違いありません、しかし、宇宙のほんの一部を理解したからといって、宇宙全部を理解したと言うことは不可能です。ブッダの説かれた因果法則と、十二因縁の教えの関係もそれと同じことです。十二因縁とは生命に苦が生じる流れを説明するための実用的な教えの一つなのです。
物質を原子レベルに拡大して観測すると、そこに想像を絶するほどたくさんの因果法則が働いていることがわかります。原子もまた様々な素粒子やエネルギーによって構成されたシステムであって、顕微鏡で「モノ」として特定しようとしても捉えられないのです。シンプルなはずの物質世界でもそんな有り様です。心という物質より遥かに巨大なエネルギーを扱う仏教の因果法則は、人間の想像を絶する壮大な真理なのです。
一方、私たち一人ひとりにとって切実なのは、自分の悩み・苦しみ・執着・渇愛をいかに無くしていけるか、という具体的な問題です。お釈迦さまは「苦しみを無くしたい」という人々の願いが叶えられるように、「十二因縁」という形で因果法則の一部をシンプルに教えてくださったのです。
無明から説き始められる十二因縁の教えを学ぶことで、私たちは「苦」が生じる因果法則の流れを自分自身に引き寄せて研究できるのです。それは、苦しみを無くすこと、涅槃に達することに確実に役立つ教えなのです。