一生役立つブッダの育児マニュアル
親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します
アルボムッレ・スマナサーラ長老
Q5 お母さんがどんなに大切なのですか?
「お母さん」は、この世で替えることの出来ないたった一人の人物です。私たちのことを正直に、こころの底から心配してくれる唯一の人です。自分のことよりも子供のことを大事に考えてくれる。正直に応援してくれる。励ましてくれる。時々子供が大人になってから、母のことを嫌いになったり、喧嘩をして別れて独りで生活するようになったりしても、母の心は変わりません。母は真剣に子供のことを心配します。「幸せでいてほしい」と日々願っているのです。
親を殴る恐ろしい子供も、たまにこの世にいますね。オッパイをあげて、オムツを替えて、一生懸命育てた子供に殴られて怪我をしても、殺されかけても、母は心の中で、「どうか、この子は幸福で、真面目な人間になるように」と思うのです。どんな人にも、この大事な人がいます。誰にでもお母さんが一人いることは、最高に幸福なことです。友達は、嫌になったり、邪魔をしたり迷惑をかけたりするなら、つきあいを止めて他の人と友達になれば良いのです。しかし、お母さんは絶対替えられません。
なぜお母さんは怒るのか
子供のことをそんなに心配しているならば、なぜお母さんはしょっちゅう怒ったりガミガミ言ったりするのですかねえ。それはお母さんが自分の大切な仕事だと思ってやっているのです。誤解してはいけません。決してお母さんは子供のことを怒っているわけでも、嫌になっているわけでもないのです。私たちのことを心配しているのです。私たちの性格は、私たち自身よりもお母さんが知っているのです。どんな苦労をしてでも、子供を立派な人間として育て上げるのがお母さんの仕事です。お母さんは怒っているのではなく、自分の仕事を一生懸命やっているだけです。
雷が落ちたように怒っていても、お母さんの心は全く違います。自分が死んだとしても子供を守りたいのです。母は子供が危険なことに逢わないように、必死で見張りをしているのです。この大事な母がいるからこそ、私たちはわがまま放題で生きていられるのです。母は自分に命を与えた神さまで、何でも教えてくれる大先生で、苦しいときは一緒にいてくれる第一の友達です。間違いを直してくれる、世の中で恥をかかないで生活できるように指導してくれる先輩でもあります。
ですから、お母さんがいくら怒っても誰も気にしないのです。母の怒った顔なんかは、2、3秒で優しい笑顔に変わるものです。
しかしお母さんはうるさすぎる、と思う
「お母さんは何でも知っていて、疲れない、力持ちだ」と子供たちは思っていますが、お母さんも普通の人間です。一人の赤ちゃんを立派な大人にしてあげるという、この世で一番難しい仕事を任されているのです。ですから、すごく心配するのです。まちがったのではないか、まちがったのではないか、といつも独りで悩むのです。子供を叱っても、独りで、心の中で泣くのです。
赤ちゃんの育て方なんか、教えてもらっている訳ではないのです。若い女の人は、初めて子供を産んでお母さんになるのです。子育ての経験もなく、抱き方さえも、あまりわからないままです。誰も、代わりに赤ちゃんを育ててくれるわけではありません。赤ちゃんも自分を産んだ母親以外の人は、それほど好きではないのです。そこで、何も知らないお母さんが、一人で夜も寝ないでがんばるのです。
それでも、お母さんは失敗しません。お母さんには「愛情」というすごい味方がいるのです。愛情があるからがんばっているのです。愛情があるからそんなに失敗はしないのです。この世には、悪い人間はとても少ないでしょう。それより、真面目に生きている人間の方がはるかに多いでしょう。それは世の中のお母さんたちの成果です。
しかし、忘れてはいけません。お母さんも普通の人間です。母も失敗する、間違いもある、誤解もする、疲れる、ストレスもたまる、たまにやってはいけないこともやってしまう。普通の人間だからしょうがないのです。
子供はわがままで、お母さんの弱いところは見ようとしません。何でも完璧にやってくれると思っているのです。それは無理な話です。お母さんは完璧でなくても良い。たまに間違いをしてもいい。完璧な母よりは、ときどき失敗するお母さんがかわいいのです。子供には、お母さんの絶対的な愛情だけあれば充分だと思います。母親の失敗や、怒ることなど、気にしない方が正しいのです。母の失敗だったらいつも許してあげることは子供の責任です。完璧な母はいません。しかし、自分のことを絶対的に愛してくれる、心配してくれる人も母しかいません。母というのは一生感謝をしても足りない存在なのです。
母だけではありません。父親も同じです。この二人は神様より大事にしなさいと、お釈迦さまがおっしゃるのです。「お母さんとお父さんは完璧であってほしい」と子供たちがおかしなことを思っているから、時々お母さんもお父さんもうるさいと思うのです。
お母さんに逆らうのは悪い?
生まれてきた人間は皆自由です。何でもかんでも母が言う通りする必要はないのです。母は全てを知っているわけではありません。自分の生き方は自分で決めなくてはなりません。何をしても、母が賛成してくれるなら、必ず成功します。
そう簡単に賛成してくれないときもあります。そのときは、泣きながらでも話し合ってみることですね。「私は反対ですが、やりたければ勝手にやりなさい」と言う場合もあります。それも本当は賛成ということです。そのとき「ありがとうございます」と言ってやってみると、成功すると思います。
母は絶対的に大事ですが、子供は母の奴隷ではない、ということも覚えておきましょう。母は、子供が自分に適した人生を築くために、全面的に協力してくれる後援者なのです。
お父さんはどこに行ったの?
お母さんがつきっきりで子供の面倒を見るからといって、子供たちがお父さんのことをあまり気にしないのは良くないことです。お母さんとお父さんはワンセットで考えなくてはなりません。お父さんもお母さんに負けないほど、子供のことを心配するのです。お父さんの応援がなければ、お母さん一人では子育てはうまくいかないのです。
今までお母さんはどれほど大切かと長く書きましたが、その説明はお父さんについても同じです。ですから、お父さんとお母さんはワンセットで考えて、大事にするのです。この二人は上手に協力し合って子育てをするのです。お母さんが怒るとお父さんは優しくしてくれる。お父さんが怒るとお母さんが慰めてくれる。お母さんでは子供が手に負えないときは、お父さんに任せる。お父さんの言うことを聞かない場合は、お母さんに任せる。子供が一人前になるまで、このように、この二人は互いに協力してがんばるのです。
子供たちの心に、お父さんのことがそれほど大きく見えないことは悲しいです。生きる楽しみが半分に減るのです。世の中が明確に見えるように、人には目が二つあります。心の中にお母さんもお父さんも一緒に住んでいるならば、その人はたいへん幸福です。
大人にはお母さんがいらないの?
これは大きな問題です。大人になったら両親がいなくてもいいという態度で生活する大人は、優しい人間ではありません。恩知らずです。両親のことを忘れるならその分、大人の幸福も減っていくのです。親のありがたさは、自分が死ぬまでつづくものです。どんな大人も、これを忘れてはいけないのです。
子供と違って大人は、親に甘えてはいけないのです。大人の仕事は、親の面倒を見ること、親孝行をすることです。親孝行をする大人は、信頼できる立派な人間です。
仕事を探したり家族の世話をしたりで精一杯、田舎は遠い、お金の余裕がない、などと言って、親の面倒を見るのをさぼる大人もいます。その人々は、親のことで手を焼くと自分が損すると思っているようです。
しかし、真理は逆です。親の面倒を見ないと損するのです。親の面倒を見ない人は、幸福になろうと踏ん張っても、努力が割に合わない結果になるのです。自分の子育ても失敗するのです。
仕事というのは難しいものです。競争も激しいものです。裏切りも、詐欺も、騙しも多いのです。生きる戦いで誰でも疲れるのです。ストレスが溜まって、病気にもなるのです。このような時、たとえ歳をとっても、親は精神的な安らぎを与えてくれるのです。
この施本のデータ
- 一生役立つブッダの育児マニュアル
- 親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します
- 著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
- 初版発行日:2004年8月