施本文庫

一生役立つブッダの育児マニュアル

親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

2 子供は大学

親の仕事は子供を社会人にすること

次に、もう一つ大切なポイントがあります。

どんな親でも、子供は自分の財産である、自分の所有物であると思う傾向があります。それも不自然なことです。子供と親の関係は、動物を見ればよくわかります。動物と人間は、何の変わりもありません。だから、動物はどのように子育てするのかと、私たちは動物から学べばいいのです。
動物の親というのは立派なもので、子供たちに、きちんとすべて教えてあげるのですね。縄張りとはどういうものかとか、餌はどうやって獲るかとか、生き延びるために必要なことを全部教えてあげてから、出て行けと追い出すのです。群れで生活する動物の場合でも、自分の子供を追い出します。追い出して群れの一員にしてしまいます。群れの一員になってからは、親子関係はないのです。まったくの一人前、他人の扱いで、甘えさせることもしない。
ですから、動物が子育てをするときには、子供を自分の財産だと勘違いしたり、一生束縛して奴隷にしようとしたり、ということはないのです。

親と子の間で起こるトラブルは、親が子を自分の財産だと思うこと、自分のもの、自分の所有物、私物だと考えること、「自分のものだから自分の好きなようにしていい」と勘違いすることが原因の場合が多いのです。でも事実は、人間というのは自由に生まれついた存在なのです。

では、皆様方に違う質問をします。自分の父親か母親があなたを奴隷にして、なんでも命令して管理するとしたら、気分がいいでしょうか?何ひとつとして自由にさせない。自分が何かやろうとしたら親が怒ってやめさせようとする。すべて親の言うとおりにしなくてはいけないはめになったら、それは気持ちいいでしょうか?
結婚しても親が干渉してきて、台所から冷蔵庫の中、押入れの中まで全部調べて「なんでこんなものがあるの」とか「これはこうしなさい」とか命令する。会社に行こうとするとお母さんがしゃしゃり出て「なんてヘンな服を着ているの。そのネクタイは変えなさい、このシャツはダメです」などと、なんでもかんでも口を出す。会社にも電話をかけてきて「あなた、しっかりやってるの?」と言われたりしたら、気持ちいいでしょうか? 
そこまでされると、親を殴りたくなる気持ちもわかりますよ。誰でも親を尊敬するものですが、誰も親の奴隷ではないのです。

そう考えると、子供にとって親の束縛は、世の中で一番いやなことなのです。
会社でいろんなことを言われるのは、そこまで嫌ではないのです。会社にいる間だけのことですからね。暴力団に入って命令されるのだって、それほど嫌ではないのです。なぜなら、自分の気持ちで入ったわけですから。しきたりを間違ったら殺される可能性もありますが、しきたりを守ればなんとかうまくいくかもしれない。そのような状況でも、当人はそれほど嫌がりません。
それよりも両親に管理されることの方が、ずっと嫌なのです。人生を親に管理され続けることこそ、世の中で一番いやなことなのです。

ですから、忘れないで欲しいのは、子供は決して「私の私物」や「財産」ではないということ。自由な人間であるということ。そして親は、「子供を自由にさせることが自分の仕事」だと理解して欲しいのです。子供は小さいときから独立して頑張ろうとしています。それを親の目で「こいつは一人で何でもやりたがっているが、まだまだダメだな。まだ何も一人でできないんだ」と楽しく見ながら、ちょっとお手伝いをしてあげる。

たとえば小学校や幼稚園に行かなくてはいけないでしょう。でもどこかで、子供は不安を抱いている。そのときはちょっとその不安をなくすようにしてあげる。「大丈夫ですよ。みんなあなたと同じ歳で同じことをやっているのだから」と安心させてあげて、気持ちを自由にしてあげる。朝早くから子供といっしょに幼稚園に行って、ジーっと見張っているようでは、やがてその子に殺される可能性があります。日本では大学までついていく親もあるくらいですからね。そういう人は、世の中の役に立ちません。自分では何も判断できないでしょうから。

子供は親の所有物ではなく、一人前の人間である。権利は平等である。社会人である。このことを肝に銘じてください。18歳や20歳になるまで待たずとも、生まれて、自分でしゃべったり行動したりできた瞬間から「社会人」です。仏教では、人間をそのように見ています。
2歳にもなれば、家族の中の社会人でしょう。3歳になったら、もう幼稚園という大きな組織の中での社会人でしょう。6歳になれば、小学校という大きな組織の社会人でしょう。それぞれの段階で、子供を「社会人」にしてあげることが、親の仕事なのです。

子供は、私の「何者」でもありません。子供は社会人なのです。
一番立派なのは「ひとりの地球人」という風に育てることです。そのように育てることができれば、素晴らしい人間になるだろうと思います。「あなたは地球に生まれてきた。地球の一員である。地球のおかげで生きているのだから、地球上の人に対して、地球上の生き物に対して、果たさなくてはいけない仕事がいっぱいあるんだよ」ということを教えてあげられれば、その親の教えは一生役に立つのです。

親は子供の最初の教師である。親の仕事は子供を社会人に育てること。
この二つのポイントをしっかり覚えておいてください。

親は未経験の教師

それから、関連する細かなポイントをいくつかお話します。
この間、小さな子供を見ました。その子は寝ていましたが、お母さんはじーっと子供のそばにいて見張っているのですね。ちょっと聞いたら、子供が起きると機嫌が悪いので、できるだけ寝かしておくようにしているのだそうです。
その後、子供は起きたのですが、勝手に遊んだり、どこへでも行ったりする。それで、私はその子供に冗談でこう言ったのです。

「あんたね、いろいろお母さんに要求してるけど、お母さんは子育てに慣れていないんだよ。なにせ初めてだからね。だから、要求したって通りませんよ」と。それは子供にはわからない言葉ですが、本当は、大人に向かってちょっと言いたかっただけなのです。
子供は自分の母親しか知りませんから「自分に対して完璧に接してほしい」という欲求を持っているのです。オムツを変えるときでも、ご飯を食べさせるときでも、寝かしてあげるときでも、起こしてあげるときでも、なんでもかんでも、きちんと自分の思う通りに、完璧にやりなさいよと、子供は要求する。
でも母親は未経験のまま母親になるのです。だって、初めて生まれた子供ですから。何一つわからないままです。父親にしても、経験者ではないのです。

たとえば学校の先生は、「教える」ことの訓練を特別に受けているでしょう。しかし、親は事前に何の訓練も受けていないのです。それなのにものすごく大事な仕事、一つの生命を人間にするという、世の中で一番大事な仕事を任されている。おかしなことに、この世の中で一番難しい仕事を、まったく経験のない人に委託して、任せているのです。この事実も、よく覚えておいてください。
自分たちには子育ての経験もないし、訓練も受けていない、上手にできないということをよく自覚して、徹底的に勉強しなくてはいけないのです。

どこで勉強するかというと、自分の子供からです。昔よく使った言葉に、「子供は大学である」というフレーズがあります。大学のように、いろいろな科目があって、それぞれまた、えらく専門的な学部なのです。普通の学校ではいろいろなことを教えますが、決して専門的ではありません。
だから、子供は学校というよりも大学みたいなものです。実にさまざまなことを両親に教えてくれるのです。

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一生役立つブッダの育児マニュアル
親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2004年8月