なんのために冥想するのか?
アルボムッレ・スマナサーラ長老
大脳の開発
・冥想とは、脳の開発だともいえます。
・原始脳に人質にされている大脳を救済することです。
・生きることの支配権をその資格のある大脳に与えることです。
・それは、生まれた時点でついている脳のプログラムのままでは達成できません。
・新たなプログラムを作らなくてはいけないのです。
英語ではhardwiringといいますが、生まれた時点で脳の基礎的なワイヤリングができていて、配線が繋がっているのです。しかし、その基本的な配線のままではダメです。生まれたままの配線の機能をストップさせて、新しい配線をしなくてはいけません。新しい配線では、大脳に支配権を与えます。せっかく肉体的に進化したのだから、これを全面的に使うことにするのです。
運転がまるっきりできない人が、高級車のポルシェを買ったとしましょう。買って、店の人が家まで車を運転してあげてガレージに入れてくれる。ポルシェを買えるくらいだから、どうせ金持ちでしょう。ガレージもあります。これで意味がある?それで誰かが、「あなた運転を習いなさい」と運転免許を取らせてあげて、やっとポルシェの価値が出てくるのです。
私たちもポルシェどころではない、もっと何千倍も価値のある大脳を持っているのです。皆、大変な価値のある大脳を持っているのに使えないのです。免許証を持っていないようなものです。それでは、宝の持ち腐れになります。
大脳を自由に使える能力さえあれば、人間は幸福になれます。むやみに欲張ったり、他人と戦ったりすることなく居られます。人は必ず死ぬ、ということは事実なので、生きるときは執着なく、穏やかに、安穏に生きることができるのです。
冥想実践とは、脳に新たなプログラムを書き加えることです。苦しみばかりを作る、悪循環のプログラムを削除するのです。大脳を正しく使って、幸福に生きる能力を身につける方法が、冥想なのです。
脳開発のメリット
・大脳の指令で生きるというプログラムは、今までのプログラムと180度違います。
そう思いたくはないという気持ちはわかりますが、人間の生きかたは、他の生きものとなんの変わりもないのです。自分は優れていると、皆、思っています。
しかし、証拠は何もないのです。自分が優れているという錯覚によって、自分で自分の脳を洗脳するのです。そうすると、生きるための空勇気が現れるようです。
脳を開発すれば、このみじめな生きかたが全く変わります。葛藤のない、悩みのない、落ち込みのない、失望感のない、苦しみのない、死ぬのは怖いという怯えがない、何にも囚われない、自由な生きかたを得られます。大脳を開発した人こそが、完璧な科学者であるというべきです。そして、完璧な現実主義者になります。
完璧な現実主義者なら、死ぬのは怖いと思わないでしょう。その人にとって、死は変化し続ける現象のなかで起こる、ある一つの現象に過ぎないのです。「生きるとは、瞬間瞬間に起こる生死の流れである」と、わかるのです。驚くことでも、大胆な出来事でもありません。あってはならないことが起きたわけではないのです。
脳を開発していない場合は、死という現象を考えたくもないし、認めないのです。病気になりたくはないから、いざ病気に罹ると、「あってはならないことが起きたのだ」という気持ちになって激しく精神的に悩んで落ち込みます。冷静でいられなくなります。
脳を開発した人にとって、あってはならないと言える現象は、何一つもないのです。老いること、病気になること、親しい人と別れること、財産がなくなること、自然災害に遭遇すること等々の一つとして、あってはならない現象ではなくなるのです。ですから、何が起きてもこころの安穏は揺らぎません。希望を作って悩まないのです。希望とは、人間のエゴの錯覚から現れる、自然法則に逆らう足掻きであると、もう発見しているのです。
要するに、世にいる普通の人間とまったく違う、超越した人格者になっているのです。原始脳は大脳を支配しません。原始脳は細胞の維持管理をするという、自分の本来の仕事だけをするのです。大脳は事実に基づいて、なんのバイアスもなく、正しい判断を下します。人生から「失敗」という言葉が消えるのです。
ここまで述べた脳の開発には、まじめに冥想をすれば、だいたい二、三週間で達することができます。コツコツやったとしても、一ヶ月、二ヶ月続けると、人格はそれなりに変わっています。ブッダの冥想では、100%の確実性で結果が出るのです。
・新たな神経回路を丁寧に作る作業が冥想実践です。
・今までの生きかたでは、いくら頑張っても一向に幸福にはならなかった。安らぎはなかった。平和は成り立たなかった。苦しみは絶えなかった。
・では、大脳に命の支配権を与えてみたら如何でしょうか?
生命が四十億年かかっても果たせなかった脳の進化が、すぐに達成できます。
・要するに、今まで人類が悩んできたすべての苦しみ・問題は、冥想が成功すると消えるのです。
・文化的・文明的な変化はあっても、人間はいにしえから問題ばかり抱えています。
・脳の開発・冥想実践によって、精神的な問題、生きかたに関する問題が消えるのです。
この施本のデータ
- なんのために冥想するのか?
- 著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
- 初版発行日:2016年4月29日