施本文庫

「死」は幸福のキーワード

~「死隨念」のススメ~  

アルボムッレ・スマナサーラ長老

するべきことをする 

いつでも、「本当にするべきこと」を行うのがブッダです。 

我々はいつでも、してはいけないことをやっています。ダンマパダ(三一六、三一七偈)にこうあります。 

アラジッターイェー ラッジャンティ  ラッジターイェー ナ ラッジャレー  

Alajjitāye lajjanti, lajjitāye na lajjare, 

ミッチャーディッティサマーダーナー  サッター ガッチャンティ ドゥッガティン  

Micchādiṭṭhisamādānā, sattā gacchanti duggatiṃ. 

恥ずべきでないことに恥を感じる、 

恥ずべきものに対して恥を感じない 

このように間違った意見を持っている生命は、 

苦難に陥るのです。 

ダンマパダ 三一六偈意訳

アバイェー チャ バヤダッスィノー  バイェー チャーバヤダッスィノー  

Abhaye ca bhayadassino, bhaye cābhayadassino, 

ミッチャーディッティ サマーダーナー  サッターガッチャンティ ドゥガティン  

Micchādiṭṭhisamādānā, sattā gacchanti duggatiṃ. 

恐れるべきでないものに恐れを感じる、 

恐れるべきものに対して恐れを感じない 

このように間違った意見を持っている生命は、 

苦難に陥るのです。 

ダンマパダ 三一七偈意訳 

人は、恥じるべきことには恥じない、恐いと思うべきことには恐がらない、という教えです。 

初期仏教を学ぶ方も、どちらかというと恥ずかしがって隠れて学んでいるようです。立派な真理を学ぶことを恥じてはいけませんね。しかし、世の中はどうでしょう。何か神秘的なことやインチキなことを言ったなら、「ああ、素晴らしい」と褒められるのです。酒ばかり飲んでアルコール中毒になっても「素晴らしい人だ」と言われます。それに対して、ちょっとおとなしく生活すると「あの人は変だ」と言われるのです。 

皆さんがもし、知り合いに「人は誰でも病気になります。死にます」と言ったら、どうなるでしょう? 「おかしなことを言うもんじゃない」と、白い目で見られるでしょう。そのときは「すみません。申し訳ありません。撤回します。人は病気になりません」と言ってください。日本人特有の習慣のような、頬っぺたを叩く仕草でもしながら、「申し訳ない、いつでも失言ばかりで。水を差すことばかり言ってしまって。人が死ぬとかそんなことはあり得ません。病気にもなりません」と撤回してみてください。そうすると誰がおかしいか、わかるでしょう。ユーモアで言えばいいのです。 

厳しいことユーモアで語る 

仏教はユーモアを大切にしています。お釈迦様も、たいへん品格の高いユーモアでしゃべっています。なぜかというと、言葉が厳しいので、ユーモアを入れないとなかなか通じないからです。 

同じことを言う場合でも、厳しい内容を怒ったような顔で言ったら、相手も反発して聞かないでしょう? それをユーモアで、相手に納得させながら、厳しい内容のことをいとも簡単に理解させてしまうのです。
お釈迦様は失敗しなかった方ですから、殴った人は一人もいなかったし、釘を打たれて殺されることもありませんでした。政治家に疑われたどころか、各国の政治家、王様達が、そろってお釈迦様のところにやって来たのです。 

イエス様は「ユダヤ人の王である」と言っていたので、ローマ帝国から「反逆者かもしれない」と疑われて、処刑されてしまったのですね。それは失敗です。いい先生とは言えません。 

お釈迦様は失敗していません。たまに他の宗教の人々が、怒鳴りこんできたことはあります。弟子が100人、200人いてうまく商売をやっていた宗教家が、「ブッダのせいで我々は倒産した」と、腹を立てて怒鳴りつけに来たのです。お釈迦様は、怒鳴りこんできた相手の気持ちがわかるので、親切に話し合って、その人にも仏教を教えて、「では仲直りしましょう」ということになったのです。それ以外の攻撃は受けていません。 

お互い侵略しようと狙っている二つの大国がありました。しかし両国の王様はふたりともブッダのことを心配していました。お釈迦様はすべて大成功を収めたのです。
あれほど爆弾発言ばかりしたお釈迦様が、なぜ大成功を収めたかといえば、その秘訣はユーモアです。我々の悪いところについては厳しく指摘しながらも、「私」をバカにしないのです。いつでも慈しみで語られます。ですからくたくたに言われても、「お釈迦様は私のことを母よりも心配している」とわかるのです。ユーモアで笑っておっしゃるので、お釈迦様に何か言われるとものすごくありがたく思うのです。 

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「死」は幸福のキーワード
~「死隨念」のススメ~  
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2010年11月21日