施本文庫

わたしたち不満族

満たされないのはなぜ? 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

5 不満が人生です

親も社会も、作ってくれるのは不満です。親は子供に安心感を与えていると思ったら、それは大間違いで、徹底的に不満を与えているのです。

たとえば、現代の母親は子供の顔を見るたびに「勉強しなさい」とか「宿題終わったの」と言うでしょう。母親は何気なく言っているのかもしれませんが、子供はそれを聞かれるたびに、不安になるのです。
あるいは「大きくなったら一流大学に入りなさい」などと言われたら、子供はえらく怖くなって不安になり、緊張してしまいます。それは子供にとって大きな負担になり、プレッシャーになるのです。

親も、兄弟も、親戚も、友人も、仕事も、教育も、知識も、大なり小なりわたしたちに影響を与えていますが、これらが与えるものは結局不満なのです。
しかし、不満や不安があるから、わたしたちは生きることに挑戦しています。親に「宿題やったの」と言われた子供は、イヤイヤかもしれませんが、机に向かって勉強するでしょうから。

世の中の人びとは「生きることは素晴らしい」と生を賛嘆しています。でも、現実は「生きることは不満」なのです。
ということは、世の中の人びとは「不満は素晴らしい」と不満を賛嘆していることになるのではないでしょうか。

6 成功のポイント

「生きることは不満である」ということを、これまでずっとお話してきました。

不満を満たすことはできませんが、それでも生きる上では、元気に活発に、いろんなことに挑戦してみたほうがよいのです。
「人生は不満だ」とただ嘆いていても、それは無意味なことです。失敗しても成功しても不満に勝つことはできませんし、価値は同じです。
それなら、失敗を選ばずに成功を選び、いろんなことに挑戦して、明るく生きたほうがよいのではないでしょうか。

 ◇大きな夢を細切れにする

わたしたちは、無防備にも大きな夢を持ちたがります。しかし、自分の能力以上のことをやろうとすると、結局は失敗し、失望し、落ち込む羽目になるのです。

もし大きな夢を持っているなら、それを細かく切ってみてください。なぜ細かくするのかというと、そうすることによって具体的に実行しやすくなるからです。

細かく切った小さな一個なら、失敗することなく上手にやりとげることができるでしょう。上手にできたなら、こころに喜びが生まれます。その喜びをもって、次の一個に挑戦すればよいのです。
そうやって一つひとつの小さなことに挑戦していくことが成功のポイントになるのです。

 ◇感情をコントロールして理性を使う

欲、怒り、嫉妬、見栄、わがままなどの悪感情をコントロールし、理性を使うことによって、成功することができます。

たとえば、誰かにイヤなことを言われて腹が立ったとき、感情は「相手をやっつけろ、言い返せ、仕返ししろ」と言いますが、理性は「それはやばい、抑えたほうがいい」と言います。
すると、感情がまた「弱虫、腰抜け!」と言いますが、理性は「冷静に、落ち着きなさい」と言います。
そこで、もし感情の声に従ったらどうなるでしょうか。言うまでもなく、ひどい結果になるでしょう。

ですから、感情ではなく、理性の声を聞くことがたいせつで、それが成功のポイントになるのです。

それから、他人の言うことも鵜呑みにしてはなりません。他人も、結局は感情でしゃべっている場合が多いのだから……。

 ◇過去・未来にとらわれない

人生は常に変化し、あらゆるものが変化しています。常に新しい問題が起きてきますから、過去の出来事にこだわって、一点に留まっている暇はありません。
「成功した」と思うと、舞い上がってそこに留まり、怠けてしまうでしょう。「失敗した」と思うと、悩んで落ちこみます。どちらにしても、過去にとらわれると前に進むことができません。

そこで成功のポイントは、過去に執着せず、将来の夢を見ず、「今」という瞬間に目を向けて、今やるべきことに集中することです。

成功には一時的な幸福があります。人生は無意味だからといって、落ちこんだり怠けたりしていては、余計に苦しみが増します。

 ◇「満足できない」ということを理解する

これまでずっとお話してきましたように、あらゆるものは変化していますから、結局、わたしたちのこころが満足することはありえません。
ですから、「必死でがんばっても意味がない」ということも、あらかじめ理解しておくとよいでしょう。

前もって「満足できない」ということを理解しておけば、落ちこみも失望もありませんから、ものごとにとらわれずに日々元気に生きることができるのです。

成功しても別に意味はありませんが、それでも成功することを選んだほうがいいでしょう。「失敗するよりなにもしないほうがまし」といって、ただ座りこんでいるのでは話になりません。
成功すると、それなりに楽しみを味わうことができます。学校のテストで高得点をとったなら楽しいでしょう。そういうちょっとした楽しみに挑戦していけばよいのです。

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わたしたち不満族
満たされないのはなぜ? 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2006年9月23日