施本文庫

一生役立つブッダの育児マニュアル

親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 

アルボムッレ・スマナサーラ長老

3 道徳を教える、慈しみで育てる

ボクはどこから来たの?

子供という大学でまなぶことは、決して楽な仕事ではありません。自分の頭をかなり鋭く回転させないといけないのです。たとえば、子供が言葉をしゃべるようになると、「あれは何? これは何?」と何でも聞くようになるでしょう。正確に教えてもわかるわけがないので、親はけっこう困るのですね。
しかし、それもまた親の宿題、研究課題なのです。

子供が親に質問する場合は、二つの段階があります。一つめは、子供は特に本気で聞いているわけではない、そんな質問です。ただ、はじめて習った日本語を訓練しているだけなのです。単語を覚えなくてはいけないから何でも「あれ何?」と聞く。米を洗っていると「何で米を洗うの?」と聞く。「汚いから、きれいにするためよ」と言うと、「何できれいにするの?」と。そのぐらいのことは答えられますが、「何でスイッチを入れるの?」とか「何で待っているの?」とか、とにかく何でも「何で、何で?」ともうやりきれないくらい聞くのです。
このような場合、子供は言葉を覚えている段階です。

それが終わったら、情報を獲得する段階に入るのです。その二つめの段階の質問には、ちゃんと論理的に情報を与えてあげなくてはいけないのです。ごまかしてはいけません。大学なのだから、仕方がないでしょう。難しいからやめた、ということはできません。

いろいろな質問をされると思いますが、子供が一番知りたがるのは、「自分がどうやって生まれてきたのか?」ということです。一番説明しにくいポイントなのですが、子供はそれを知りたいのです。それも自然の流れの中で答えていくしかありません。
なぜならば、子供はもう自分の存在に気づいているのです。親に大事にかわいがってもらって元気に生きている。そういう自分はどういうふうに出てきたのかという自分に対する興味なのです。そこで、コウノトリが運んできたとか、何の根拠もない嘘は言わないほうがいいのです。

兄弟だと、二人目の方が教えやすいのです。一人目は難しい。最初の子供を育てる場合は経験がないのですから。
でも、上の子に教える場合は、二番目の子がおなかにいるんだよと言うことはできます。お母さんのおなかが大きくなってくるので、その質問は必ずされるはずです。聞かれたら、ためらうことなく、本当のことを言えばいいのです。おなかの中にこういうふうにできたんだと言えばいい。子供にはあまりわかりませんが、でも本当のことを聞くと、何か大変なことだということは認識します。

キウイという果物がありますね。あれは蔓が二つないと実りません。おしべとめしべは、それぞれ別の蔓で花開くのです。ですから、実らせたければ、ちゃんと両方育てないと実らないのです。
そこで、ある子供が母親に「何でおしべとめしべがないと果物が実らないの?」と聞く。親は説明できなくて私に聞くのです。私はなんということもなく、普通に学校で教えるような感じで教えます。
すると次の質問は「何でそういうふうにならなくちゃいけないの?」と。それで私は「世の中どこでも見てみなさい。鳥でも動物でも、二人いっしょになって子供をつくるでしょう」とDNAのことまで話して、「でも、そういうふうにお互いが混ざることで、病気にならないで、元気に健康に生きられるのです。もしそうやって混じりあうことがなければ、すぐにいなくなっちゃいますよ。あなたがよく知っている恐竜や、昔の色々な動物は絶滅してしまいましたね」と。その説明で子供が理解したかどうかはわかりませんが、とにかく一応納得したみたいです。
ですから「子供にはそんなことはわからない」ということではなくて、理解できるように色々な方法を使って教えることが先生の仕事なのです。先生というのは、親のことですよ。

親は漫才師になろう

それから教え方のポイントですが、子供が興味を持つように楽しく教えてあげることが大切です。

お母さんたちの様子をジーっと見ていると、えらく清潔好きなのですが、見た目の清潔感が強くて、実際には不潔なのですね。子供の服が汚れていても、たいしたことはありません。食べるとき、両手や顔中にご飯をつけていても、気にするほどのことはない。なのに、親は大騒ぎです。
一方、床や畳など、みんなが歩くところを子供はべたべたと手で触ったり、床にご飯がちょっと落ちたら拾って食べたりしても、大体の場合、親は何も言いません。床というのは、一見きれいに見えてもほこりや細菌だらけです。子供の手は小さくて、ネコの手みたいな感じで大人の手よりもふっくらしていますから、ピッタリほこりや細菌がベッタリついてしまいます。
ですから、見た目の清潔さではなくて、実際の清潔さに気をつけたほうがいいのです。

そういう場合は、子供にちょっとしたドラマ仕立てで教えてあげるといいと思います。「あっ、手の中に細菌がいっぱいだ」とか「お母さんのとこに来ないで。細菌だらけで汚いよ」とか「ああ怖い」とか、ちょっと冗談で「私の食べ物だけには触らないで」とか、そういうふうにちょっとドラマっぽく言うと、子供はすぐに勉強するのですね。
「ちゃんと手を洗いなさい」と命令するのではなく、言われることの中にもそれなりの理屈があるんだと気づかせることが大切です。
大体どんな子供でも、漫画など、おかしいことが大好きです。何で子供はあれほどポケモンが好きなのでしょうか?大人からみれば、なんだこれ、という感じですが、あれはおかしいから、変だから、子供は好きなのです。
ですから、本当は子供をしつけるのは簡単なことです。何か言うときにはドラマティックにオーバーに言えばいいのです。自分が漫才師になって、ちゃんと演じてみせる。それは親にとっても、すごくリラックスできる気持ちのいい仕事だと思いますね。日常生活のことを、ちょっとドラマにしてみてはいかがでしょう。手を洗わずにご飯を食べたら、お腹をこわして吐いたりして色々苦労することを、自分勝手なドラマにしておもしろおかしく話してあげる。子供は聞いてないふりをしても、ちゃんと聞いているのです。

たとえば文字を教えるときでも、いろいろなストーリーや遊び、恐竜やモンスターなど、子供の好きな言葉を使って言うと、早く覚えることができます。
子供がひらがなの「ほ」という字を書こうとして「ま」という字を書いたとする。それなら「『ほ』という字には付き人が必要だよ。連れがいるんだよ。でも『ま』は一人でもまあまあ大丈夫だ」などと、これは私が今考えた例ですが、それなりに色々ストーリーを作って教えてあげるといいと思います。
たとえば、スリランカで使われるシンハラ語の「න(ナ)」と「ත(タ)」の文字はとても似ています。ちょっとの差だから、子供には区別できないのです。子供にとっては、これはえらく苦しい、大変なことなのです。だから子供に教えるときには「『න(ナ)』はね、おなかがすいて上を向いているの。『ත(タ)』はおなかがいっぱいで、もういらないと言って下を向いているんだよ」と話します。シンハラ語では、ご飯のことにも「タ」という言葉を使います。だから、おなかがいっぱいで、もういらないと言って下を向いていると言えば、ちょっとしたストーリーですが、そのストーリーですぐに覚えてしまうのです。
このように子供の世界はいつでも楽しみでいっぱいなのです。ですから、子供に教えるときはいつでもおもしろさ、楽しみというのを利用して指導した方がいいのです。

文字を教えることは学校の先生の仕事かもしれませんが、親の大事な仕事は人間を育てること、つまり道徳を教えることです。でもそれは、どうやって教えればいいのでしょうか?たとえば「怒ってはいけない」ということは、どのように教えればいいのでしょうか?

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一生役立つブッダの育児マニュアル
親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します 
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2004年8月