一生役立つブッダの育児マニュアル
親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します
アルボムッレ・スマナサーラ長老
親が教える道徳は宝物
親が教える道徳は、子供にとって一生の宝物になります。
私がまだ幼い頃の話です。鳥を捕まえようと罠をしかけて、鳥がエサを食べに来るのを待っていたことがありました。そこをちょうど母親に見つかってしまったのです。母親は私にこう言いました。
「誰かが罠をしかけて、あなたを捕まえて、どこか知らない場所へ連れて行って、檻に入れて、逃げられないように外から鍵をかけたら、どんな気持ちになる?」と。その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中には、自分が誰かに捕まえられて檻に閉じ込められるイメージがはっきりと浮かんできたのです。「あぁ、なんて恐ろしいことか! こんなことをやってはいけない」と心が痛くなりました。
私の母親はこのようにして、生命を大事にすること、正直になること、約束を守ることなど「どんな人間で生きるべきか」という道徳をすべて、日常生活の中で私がイメージできるように、わかりやすく教えてくれたのです。
ときには、母親が病気になることもありました。そんなときでも、子供たちは「ご飯はどうするの?」とわがままを言うのです。
そうすると、母親は「私はもう歳だからすぐに死んでしまいますよ。君たちはいつまで親に甘えるつもり? 自分のことを自分でできなかったら生きていけませんよ」と言って、私たちに独立する大切さを教えてくれました。
それから兄弟で喧嘩をしているとき、母親は「私は先に死んでしまうけど、その後も君たちはいっしょに生きていかなくちゃいけないんだよ」と言いました。
その言葉を聞いた子供たちは、「ああ、兄弟喧嘩はいけないな、いつまでもお母さんが来て守ってくれるわけではないんだ」という気持ちになって、兄弟で仲良くすることや助け合うことを学んだのです。
また母親は、私が手伝いをするなど善いことをしたときはほんのちょっと褒めてくれましたが、一日中遊んでいたら「あんたもいるんですか?」という態度で私を無視するのです。
そういう母親の態度から私は、人に助けてほしければ、面倒をみてほしければ、自分が努力しなければならない、ということを学んだのです。他人の協力はタダで得られるものではない、ということ。
この戒めは私が13歳のとき親元を離れて出家して、まったく知らないお寺の世界に入ったときも役に立ちました。お寺の長老に親切にしてもらえなかったら困るのは自分だ、と理解していたから、長老にかわいがってもらえるように、自分の方からいろいろと善いことをしたのです。大学に入ってからも同様に、賢くて学識がある教授たちに対しては、自分なりにいろいろ工夫してアプローチしました。そうすると教授たちは専門的な知識だけでなく、人間として生きる上で大事なことを何から何まで親切に教えてくれました。
おかげで、私はお寺にいるときも大学にいるときも、気持ちよく生活できたのです。
繰り返しますが、親が教えてくれる道徳は、子供にとって一生役に立つ貴重な宝物です。
親にとってもっとも大切な仕事とは、子供に道徳を教え、善い人間を育てることにほかなりません。正直で、忍耐強く、自分で決めたことは文句を言わずに最期までやり遂げる。どこにいても、どんな仕事に就いても、道徳的で立派な人間として生きていられる人格を形成することなのです。
この施本のデータ
- 一生役立つブッダの育児マニュアル
- 親の「どうしたら?」と子供の「どうして?」に答えを出します
- 著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
- 初版発行日:2004年8月