施本文庫

お釈迦様のお見舞い

気づきと正知による覚りへの道  

アルボムッレ・スマナサーラ長老

はじめに

これから一つの経典を読んでいきましょう。『パーリ相応部、六処篇、受相応、有偈品、疾病経(一)』を解説します。この経典は、冥想の初心者から、最終的な覚りの段階まで、私たちが学ぶべき冥想実践がコンパクトにまとめられたものであり、気づきを実践する大切さがよく理解できる内容となっています。冥想実践をする上での重要なポイントを私たちに伝えてくれます。

経典の名前であるGelaññaゲーランニャとは、パーリ語で疾病を意味する単語です。英訳すれば、sicknessです。いわゆる「病」「病気について」「病気であること」という意味です。
経典の舞台となった場所はリッチャビー族の首都ヴェーサーリにあるクーターガーラサーラー、日本語訳で「重閣講堂」という、いくつかの棟からなる大きな建物でした。

お釈迦様の時代、インドには十六の大国が競い合っていました。リッチャビー族の住んでいたヴァッジ国もその一つで、豊かに富んだ国でした。人々はまわりの国々から攻め込まれないように、お釈迦様から「国が繁栄して衰えない政治の仕方」を教えてもらい、王様を立てずに集会で国の政治を行っていました。重閣講堂は、その集会を開くための建物です。ただお釈迦様がおられる間はべつに政治をしなくても大丈夫ですから、国会は開かれませんでした。

重閣講堂には病棟もあり、病気になったお坊さんたちが治療を受けていました。この経典は、お釈迦様がそこにお見舞いに行かれたときになさった説法を記録したものです。注釈書には、お釈迦様であっても、一切生命より優れた方であっても、病気の人々のお見舞いに行きました、と書いてあります。

「病人にどのような言葉をかけて、励ましたら良いのでしょうか?」というのは、よく聞かれる質問です。お釈迦様なら、超能力・神通力などを使って、病人をたちまち治してしまったのではないか。あるいは、特別な経典にある呪文などを唱えて病気が早く治るようにしたのではないか。そう思うかもしれません。私たちはだれでも病気になりますから、ぜひ説法の内容を知りたいと思うところですね。

しかしこの経典では、皆さま方が頭で妄想している、期待している答えとは違った答えが説かれているかもしれません。あるいは、人が最終的に病で倒れたら、どのような心構えでいれば正しいのか、教えてくれるかもしれません。真理を発見した正覚者である釈尊のお言葉なので、私たちもこの経典で指導されるように実践したほうが、無難だと思います。
必要なところを詳しく解説しながら、順番に読んでいきましょう。

この施本のデータ

お釈迦様のお見舞い
気づきと正知による覚りへの道  
著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
初版発行日:2008年5月