こころのセキュリティ
爆発寸前のあなたを幸せに導く「日夜の指針」
アルボムッレ・スマナサーラ長老
あなたはスーパーマンになれるだろうか?
ところで、宗教好きの人たちのなかに困った問題がまだあります。それは、宗教を一種の超能力愛好主義として捉えていることなのです。スーパーマンやウルトラマン、仮面ライダー、さらには最近のハリー・ポッターなどは、どうして人気があり、もてはやされるのでしょうか? そして、そういうもの、ヒーローに憧れることは、なぜいけないのでしょうか?
われわれはこの世の中に生きていると、自分という存在がいかに小さなもので、どんなに非力であるかということを痛切に気づかされます。人生は、絶対に自分の思うとおりに流れてくれません。お金でも仕事でも人間関係でも、自分が望むようにはけっしてなりません。家族でさえ、自分の思うとおりには動いてくれないのです。世界のなかで、自分はほんとうにちっぽけな存在であり無力ではあるのですが、そういう自分に実現できないこと、こうであったらいいなあと思っていることを叶えてくれる世界があります。それは、想像の世界です。
空を飛べたらいいなあという思いが、空飛ぶ絨毯や空を飛ぶ馬、空を飛ぶ象などの物語によって、一応気持ちを満たしてくれる。人間のあらゆる能力の頂点に立ってみたいという希望が、ギリシャ神話によって叶えられる。
例に出したものは、まあ子供の世界の夢物語ですが、大人の世界でも同じように夢を叶えてくれるようなお話が、いつの世でも絶えることなく出てきます。豊かになりたい、美しくなりたい、才能あふれた人間になりたい、みんなに一目置かれるような人物になりたいなど、人間の底知れない欲。ライバルに勝ちたい、だれよりも一番になりたい、だれからも恐れられる強者になりたいという恐るべき怒り。そういう世界が絶対に実現しないということはわかりきっているのに、夢の世界に身をゆだねてしまう愚か者とも言うべき無知。
物語は、私たちの妄想を想像という夢のなかでだけ叶えてくれます。妄想は欲と怒りの感情によってかき立てられますから、物語を好むということは、これらの欲や怒りにますます栄養を与えるという結果を招きます。そしてそのことは、こころの成長に大きな障りとなるのです。
夢や願望の妄想のなかに身を置いてそのなかにどっぷりとつかっていると、やがて妄想と現実の区別がつかなくなってくる人びとも出てきます。
現代では、子供さえも犯罪を起こすケースがあるので、みな大変心配しているでしょう。現代の子供たちも、親、親戚、先生たち、友達などに囲まれて現実的に生きることはできなくなっているのです。子供たちは一人ひとりで、テレビ、マンガ、パソコンのサイバー世界(空想)に入り込んでいるのです。自分が生きる世界ですから、サイバー世界と現実の世界の区別は分からなくなっているのです。犯罪を起こしても、自分にはゲーム感覚です。悪いことをした、という気持ちはないのです。
みんながみんな、こんなふうに異常な世界に陥るということはありませんが、それでもこういう超能力傾向のつくり話などを自分のなかにインプットするときは、多少なりともこころのなかに欲と妄想を育むウイルスのデータを入れているのだということに変わりはないのです。このウイルスをインプットすることによって、人間にはある症状が現われてきます。それは、超能力愛好主義という論理的には説明不可能な出来事や現象を好む傾向が出てくるということです。
宗教というものをこの超能力愛好主義の人間が捉えると、たとえば、不治のガンなどの病気を治してくれる、商売繁盛を実現してくれる、悪霊などを祓って不幸をなくしてくれる、危難から身を守ってくれる……などという期待感で見てしまうのです。そういうことをやってくれるからこそ宗教は必要なのだ、という見方になるのです。
そういう人は、「この祈りの文句を唱えればなんでも叶いますよ」と言われれば、すぐに信じ込んで喜んでお祈りをするのです。「ほんとうかな?」「でも、ちょっとおかしいんじゃないかな?」などという疑問はぜんぜん抱きません。
ちょっとした試験に合格するのにも、それはそれでたいへんな努力がいるのに、宗教にかかるといとも簡単に合格してしまいそうです。これは、仕事をしないで給料だけを要求しているようなものではないでしょうか?
好きなだけおいしいものを食べ、浴びるようにお酒を飲んで病気になっても、「クスリも飲まず、お医者にもかからないで、病気を治せ」と言っているのと同じでしょう。こういう超能力愛好主義の人間が宗教を利用しようとすると、「怠けたい」「努力したくない」「欲を満たしたい」「怒りで生きていきたい」というように、こころに潜んでいるものすごく悪い特色、汚れがますますこびりついて離れなくなってしまうのです。
ですから、こういう宗教がいくらいいことを言っても、どんなにご利益を宣伝しても、その結果として人間のこころは「欲」「怒り」「無知」の三悪を肯定して、どんどん栄養を与えるという危険なことになっていくのです。マンガ、SF、神話など、妄想世界に遊ぶ物語などを無自覚に乱読していると、じわじわと超能力や超常現象を好む性格に変わっていく危険性があるのです。
この施本のデータ
- こころのセキュリティ
- 爆発寸前のあなたを幸せに導く「日夜の指針」
- 著者:アルボムッレ・スマナサーラ長老
- 初版発行日:2002年9月